僕は君が

ときめきの用例採集

"消滅"の中で浮かび上がる"不滅"──『密やかな結晶』

『密やかな結晶』を観てきたのでネタバレあり感想を。

場所は東京芸術劇場プレイハウス。前方席だったのもあって舞台は観やすかった。ただ、運が悪かったのか驚くほどに周囲のマナーが残念で、開演後の真っ暗な中でもスマホを触り続ける(ライトが煌々と光ってる……!)、特定キャストが登場したら「出た!」と声を上げる、公演中にドリンクを飲んだ上そのペットボトルを放置していくなどに遭遇。おおう……、カルチャーショック。それと、カーテンコール時にうちわ系でメッセージを伝える行為。係員さんも特に注意してなかったから許容範囲なんだろうけど、舞台ではあまり見かけないから二度見してしまった。レスもらえるものなのかなぁ。

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≪舞台版 あらすじ≫

海に囲まれた静かな小島。この島では“消滅”が起こる。香水や鳥、帽子など、様々なものが、“消滅”していった。

“消滅”が起こると、島民は身の周りからその痕跡を消去し始める。

同時にそれにまつわる記憶も減退していく。

 

『わたし』は、この島に暮らす小説家。近所に住む『おじいさん』とお茶を飲みながら話をするのが日課という静かな毎日。

おじいさんは、わたしのことを赤ん坊の時から見守り続けているが、その頃からずっと若者の容姿をしている。

 

わたしの母は秘密警察に連行され死んだ。鳥の研究家だった父も亡くなり、おじいさんだけが心安らぐ存在だ。

この島にも、少数ではあるが記憶が“消滅”しない人、記憶保持者がいる。彼らはそのことを隠して生活しているが、謎の組織である秘密警察は手を尽くし、彼らを見つけて連行する。島民が恐れる記憶狩りだ。

 

記憶狩りが激化する中、わたしの担当編集者R氏から、記憶保持者であることを告白される。

もう二度と、大切な人を秘密警察に奪われたくないと思うわたしは、R氏を守るため、自宅の地下室に匿うことを決意する。

 

わたしの身を案じるおじいさんはR氏の存在を危険視しながらも、わたしのためR氏を匿うサポートをする。

一方の秘密警察たちも、自分たちの行為の真相は知らず、実際は組織の中で翻弄されるただの人間である。

ナチスからユダヤ人を匿うような緊張の日々の中、わたしとR氏の心の通い合いは深くなっていく。

 

R氏はわたしに、人間の生活に寄り添っていた些細なものたちがいかに愛おしいか、本来の豊かな記憶の世界へ引き戻そうとする。が、おじいさんにとってその行為は、わたしを秘密警察の記憶狩り対象者にすることに等しい。

 

記憶を失うことでわたしが『わたし』ではなくなってしまうことを防ごうとするR氏。わたしを危険にさらさず、島の世界の道理に順応して生きることで彼女を守りたいというおじいさん。考え方は全く違うが、わたしを大切に想う気持ち、守りたいという気持ちが二人をつないでいる。

 

秘密警察の苦悩、R氏の抑圧感、おじいさんのジレンマ、わたしの恐怖・・・

様々な想いを抱えた島は、「消滅」がさらに増えていく。

人々はどう生きるのか。

 

最後に消えるのはいったい何なのか―――――

 

密やかな結晶 | ホリプロ オンライン チケット 

 

原作は未読。小川洋子作品だと『薬指の標本』が一番すき。小川洋子作品のモチーフとして"消滅"は多い。最も有名だろう『博士の愛した数式』でも記憶の"消滅"が重要な要素だった。『密やかな結晶』でもそれに通じるものがあって、"消滅"が起こる島ではその度に痕跡は消され、人々の記憶も薄れていく。
上演時間は15分休憩ありで、一幕65分、二幕85分。休憩込みで2時間45分。案内はこんな感じ。"消滅"が表現されている『密やかな結晶』のタイトルロゴがあしらわれている。この舞台、ビジュアルイメージは本当にたまらなく好み。

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舞台全体の感想。ポスターやタイトルロゴ、衣装などのビジュアルイメージはものすごく好きなのに、舞台そのものは自分にはあまり合わなかった。小川洋子作品独特の不思議な設定が、この舞台ではなかなか受け入れづらかった。「わたし」「R氏」「おじいさん」のように人称からも敢えて無国籍感を漂わせているのと思いきや、秘密警察は関西弁で喋り出す。これはシリアスな設定の緩衝材だったのかな、原作では関西弁設定なんてないようだし。でも、方言で笑いを取るってもはやひと昔前のような。地方公演でその土地の方言を使うならまだしも(劇団四季などでよくある)、唐突すぎる関西弁だし。関西弁を挿入することで現実世界としてのリアリティーを出しているのかもしれないけれど、そうするとどうしても設定の齟齬などを考えてしまう……。これは現実にも通じる話だ、という解釈は観客側で勝手に行うので、無理に現実世界へ歩み寄ってくれなくて構わないかなぁ。虚構から現実に繋がるピースを探す作業って受け手側は無意識でしてると思うんだ。むしろ、設定の整合について観客が考えてしまうような演出は取り込まないでほしかった。設定の齟齬についてものすごく考えてしまったよ……。私たちの消滅は完全なの、と「わたし」は主張するけれど、冒頭で「おじいさん」は薔薇の消滅の様子についてありありと語ってみせている。ええええ、「おじいさん」めっちゃ覚えてません???それぞれの思い入れによって消滅の程度は変わるの?と一旦疑問に感じるともう気になってしまってだめ。設定に問題があるわけでは決してなく、舞台での見せ方が自分の好みとはひたすら外れていた感じ。それと、「おじいさん」が暴行を加えられる原因となったラムネについて、「R氏」に尋ねられても「わたし」が忘れているようだったのは消滅した品だからなのだろうか。こうしたアレコレがいちいち気にかかる。この舞台はこういう設定です!と虚構を納得させるだけの力が『密やかな結晶』には少し足りなかったのかも。もっと圧倒的フィクションとしてねじ伏せてくれていいのに。
こんな感想を書きながらも、ラストには胸を撃ち抜かれた。ドアを開いた瞬間、溢れかえる薔薇。舞い散る薔薇。ただこれも、この演出が好きというより、ビジュアルとしての美しさに心を掴まれただけのような気もする。この舞台に関連するビジュアルはどれも好きなんだ本当に。そもそも薔薇の消滅のくだり、言葉でしか語られないのにかなり美しくて。ああ、すきだなぁ。セリフからの想像だけで美しいと思える光景なんて、そうそうない。そうして消滅したはずの薔薇の花びらが舞台を埋め尽くすほどに舞い落ちてくる様はまさに圧巻。美しい。花びらが降り注ぐ中でのラストシーンは未来への微かな希望を感じさせるものだった。「わたし」「R氏」の愛のお話として観ていればより深く感動できそう。この辺りは舞台オリジナルな気がするけれどどうなんだろう。

小説の消滅=焚書、カレンダーの消滅=暦の剥奪の暗喩かと勝手に解釈して、国家権力vsマイノリティーの構図をメインストーリーとして捉えていた。「記憶狩り」「秘密警察」という名称もどうしてもナチスを彷彿とさせる。基本的に、ミュージカルのように歌い踊るのも笑いが多めなのも弾圧する側の秘密警察だったから、重い設定の緩衝材というよりも、より際どくえぐみを出しているのかと思っていた。この思い込みもあって、島から消滅するものについては秘密警察が取捨選択しているんだろうか、など舞台序盤は疑問だらけ。舞台あらすじを読めばちゃんと書いてましたね!事前に読んでおけばよかったのか!私の中で一気にイメージが変わったのは、フォーゲットとR氏のやり取りから。ほぼほぼ終盤。二人の関係性は序盤で大体推測できたけれど、ここまで叙情たっぷりにまとめる感じなのかーと。パンフレットを読む限り、あのくだりは舞台オリジナルらしい。もっとシンプルに、あらゆる「愛」のお話として観ていれば、設定に野暮なツッコミを入れずにストーリーに没入できていたのかもしれない。"消滅"を描いていると思っていたら"不滅"のものが浮かび上がってくるという構造はすき。

キャスト別感想。

石原さとみさん。わたし。一風変わった設定があるものの、等身大の女性として「わたし」は舞台上に存在していた。ビジュアルイメージとは異なる衣装&ヘアメイク。終盤で着ていた白ワンピース姿がドストライク。ブロマイド売ってくれ。序盤は若干声が聞こえづらくて不安だったのがどんどんギアがかかっていく感じで、ラストのあのセリフには圧倒された。感情の昂ぶりに合わせて声をひっくり返らせるのがどうしようもなく好きなんだ~~~。感情豊かだったはずの「わたし」の心が衰弱して、「持てる者」と「持たざる者」というどうしようもない溝が徐々にR氏との間に生まれていくのがよい。どの視点で見るかによって「持てる者」と「持たざる者」の構造が変わっていって、この設定自体はやっぱり面白い。

村上虹郎さん。おじいさん。声がこもりがちなのか、セリフを聞き取りづらいことが多くてもったいなかった。もうそれだけがひたすらに残念。「おじいさん」としての立ち居振る舞いには「わたし」への愛情が常に感じられた。ソロナンバーでの切ない晴れやかさには胸が締めつけられる。あれは雨に唄えばオマージュ?おじいさんのはずなのに姿は若者という謎設定は大して気にならなかった。ただ、原作でもそういう設定なのかだけ知りたい。

鈴木浩介さん。R氏。記憶をなくさない"レコーダー"のR氏が、記憶の"消滅"が普通である島ではマイノリティーとして迫害・弾圧されることのリアリティー。「持つ者」「持たざる者」の基準の移ろいやすさよ。鈴木さんは声が聞き取りやすいし、多少のお遊びを織り交ぜる余裕もあるし、安心安定。日替わりっぽいネタもあり。鈴木さんと山内さんで舞台を締めて引っ張っていた印象。鈴木さんのラブシーンを観てると何だかドキドキするぞ。「わたし」の足に口づけるって何なの!カーテンコールでは、石原さとみさん・村上虹郎さん・鈴木さんが一緒に登場してくるのだけど、どうやら鈴木さんが一礼するのを忘れていたっぽくて、三人でしばらく見つめあっていたのが可愛すぎた。本来なら、まずは鈴木さんが三人の中ではじめに一礼をする段取りだった模様。それにしても、ハマっていたLIAR GAMEからもう10年経過しているって事実に震える……。

山内圭哉さん。フォーゲット。山内さん、すっごくよかった~~~!この舞台の衣装で一番好きなのはフォーゲット。ベルベット生地っぽい黒尽くめのマントと軍服(?)に、マント裏生地と袖口の真紅が映える!!!べらぼうにかっこいい!!!計算し尽くされたあの色合い!!!フォーゲットのブロマイド売ってくれ~~~。山内さんから漂う底知れない不気味さと秘密警察ボスという役柄がマッチしていた。「おじいさん」に暴力を振るうシーンなんて何をしでかすか分からない怖さがありまくり。R氏との関係は推測できていたので、「おじいさん」が気の毒すぎるとひたすらに思っていた。R氏とフォーゲットのあのくだりをエモいと思うか、お涙頂戴と感じるかは人それぞれ。直近で山内さんを観たのは風髑髏のクレバー兵庫で、製作発表にも行けたから結構近い距離で拝んだのだけど、山内さんってひたすらに低温っぽくて興味深い。

 

ビジュアルがたまらなく好みなんだ!という主張のため、購入したパンフレットの写真を貼りつけ。水色+紅色って抗えない……!

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