僕は君が

ときめきの用例採集

『Yè -夜-』

『Yè -夜-』4/7ソワレ公演の感想。

舞台『Yè -夜-』と原作である中国映画『The Night』のコラボイベント『夜 Crossing Point』が開催されるというニュースを見かけたので、ブログ開設前に観ていた『Yè -夜-』の感想を今さらながら書いてみる。ネタバレあり。コラボイベントについてはこちら。観劇後に中国映画『The Night』の情報をぐぐってみてもあまり見つからなかったので、このイベントで映画も上映されるというのは羨ましい。

natalie.mu

『Yè -夜-』は脚本・演出のほさかようさん目当てで観劇。空想組曲以外の舞台ではどんな感じなのだろうと何気なくチケットを獲ってみたけれど、かなりの競争率だったらしい、とお手洗いで耳にした。劇場はシアターウエスト。『Yè -夜-』の前は空想組曲『どうか闇を、きみに』を観にきていたので、ほさかようさん続きだったシアターウエスト。『どうか闇を、きみに』は独特な座席構成だったけれど『Yè -夜-』は通常の座席構成。

中国の地方都市。その寂れた裏路地に毎夜のように一人立ち、出会う客に身体を与える事で日々の糧を得ている水仙(スイシェン)。いつものように過ごす《夜》だったはずが、一人の青年と一人の少女との出会いが、その《夜》を変えていく。ゲイの自分に後ろめたさを感じながら水仙と《夜》の深い世界に溺れていく青年・夜来香(イエライシャン)。娼婦として水仙と同じショバに立つことに決めた薔薇(チアンウェイ)。

その出会いから紡がれる“自分を否定し、誰ともつながれない若者たちが、それでも、つながりを求めて生きようとする中で自分を見つめ直していく”物語。自分の気持ちに素直になれない、恋に臆病な若者たちに訪れる結末は・・・

Yè -夜- 公式サイト

舞台全体の感想としては、痛かった。容赦なく胸が締め付けられて、観終わった直後はくらくらした。舞台公式サイトで「映画のR-15と同程度のセクシュアルな表現があるため」としてR-15と案内されていた通りたしかにセクシャルな表現は多く、キャストはまさに体当たりといった感じ。生半可な濡れ場じゃない。喘ぎ声だけで済ませるのではなく、実際に行為を致してる風に見えるよう腰のくねらせ方や身体の絡ませ方にもすごくリアリティーがあった。男娼というのもあってか喘ぎ声も相手を高揚させるよう意識したものが多くて、その分、慣れない売春をした夜来香の喘ぎの落差が苦しくて苦しくて。この辺りは後で触れる。

冒頭、水仙と夜来香の二人は、トンネルの中にある秘密基地めいた水仙の部屋に入っていく。一枚、一枚、服を脱ぎ捨てながら。初っ端から怒涛の艶かしさでドキドキした。これ、原作の中国映画ではどういった映像なのか気になる。石造りの壁と簡素なベッドだけがある中で、ここはコンクリートと俺の匂いしかしないなんてことを水仙が言う。何そのセリフ。こんなの恋に落ちるしかない。この部屋は水仙が言うところの、世界の果て。部屋に向かうきっかけとなった水仙と夜来香の出逢いはまるで一目惚れのようで(水仙は客を断ってまで初対面の夜来香の手を取った)、惹かれた理由について特に言語化されていない。まさしく、恋に落ちた二人といった感じ。お互いに「好き」や「愛してる」といった明確な好意の言葉を口にしないけれど、相手のことを分かりたい、自分のことを分かってほしい、と心の底では願っているのが痛いほどに伝わってきた。

観劇前、鏡に口づけしているようなポスターと「水仙」という名前から、ナルキッソスを連想した。自己愛の塊。『Yè -夜-』は自分を愛するが故に他者を受け入れられないというストーリーなのかと当初予想したけれど、ポスターには「誰かと関わるため…─僕は、僕の《夜》を売る」というフレーズが記載されている。夜来香とは違うと口では言いながらも、水仙もたしかに他者との繋がりを求めている。人が誰かを求めるのは普遍的なテーマだ。マイノリティであるが故の苦悩を織り交ぜている一方で、家族との関係性など誰もが思い当たりそうなすれ違いも語られていて、『Yè -夜-』での出来事は観客から遠くかけ離れた世界のものだとは思わせない。

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キャスト別感想。
北村諒さん。水仙。黒地に赤や黄色の花柄の派手めなシャツが白肌によく似合っている。ヴェールを纏ったような美しさは無自覚の憂いでさらに色気が増していて、それなのに露骨に肌蹴てもあまりいかがわしさを感じなかった。耳に髪を掛けているのもあってか見え隠れする表情がミステリアスでそれがまた魅力的。客との契約の儀式が自分の赤いネクタイを掴ませること。この設定がすごくよくて、自分の魅力を存分に活かしている水仙の強かさよ!靡いてきたサラリーマン相手に躊躇なく、便所でもいいか、手がいいか口がいいか尋ねて淡々と春を売る。水仙は男娼という生業に染まっているように見えて、夜来香の「普通」という言葉に過敏なほど反応する。自分自身を尊大な態度で認めているようで、心の奥底では実質認めることができていない。そのズレを鈍い夜来香によって容赦なく突かれて傷ついていく。ヲタクの大好きなヤマアラシのジレンマを思い出す。夜来香はあっち側で、水仙はこっち側の人間。夜来香との関係を尋ねてきた薔薇に対して、水仙はこう告げて線引きをする。水仙にとって互いを分かつその線の溝は深く、水仙のことを理解しようと行動する夜来香に「入ってくんなよ!」ととうとう激昂する。本人でさえ認められず受け入れられない自分自身の全てを認めて、受け入れようとしてくる夜来香は、水仙にとって恐ろしくさえあるんだろう。

松村龍之介さん。夜来光。ゲイの自分に後ろめたさを持ちながらも家族にカムアウトはできず、「普通」に囚われている。その反動からか「普通に」という言葉を無自覚に多用しがちで、それが水仙を苛立たせることにも気づけない。無自覚の暴力。普通とは何だろう。口とかケツとか使って働いてるんだと言ってのける水仙に打ちのめされて、自らも男娼として見ず知らずの男性と関係を持つ夜来光。その後男性に手ひどく抱かれる夜来光に私自身も打ちのめされた……。辛い。客が金を置いて立ち去った後、自分の体を掻き毟るみたいにもがき苦しむ夜来光。辛い。声を聞いてるだけで胸が痛かった。その辛さと惨さを目の当たりにしたとはいえ、体が腐っていくみたいだ、と娼婦である薔薇の前で言ってしまう夜来香に、相変わらず学習能力がない物言いだな……と思ってしまった。終盤、妻への不満を爆発させた刺に対して、「僕たちは先輩の奥さんじゃありません」と穏やかに告げる夜来光。ここのセリフと声のトーンがかなり意外だったけれど、改めて思い出すと、夜来光が人間らしく見えてかえってよかったかも。水仙の全てを受け入れたいとまっすぐに願うあまりに善良で私欲がない人間のように感じられそうな彼が、尊敬していたはずの先輩である刺に対して線引きをする。拒絶をする。聖人君子じゃなくてよかった。スパダリではなく等身大の人間性が感じられる。ただ、夜来香のまっすぐさは水仙にとっての刃になり得ると序盤から何度も示されてきたのでそこが重い。それでも、水仙の手酷い拒絶にめげず、理解する為に自らの体を見ず知らずの男に投げ出た夜来香のまっすぐさに少なからず救われたのはたしか。

 
平田裕香さん。娼婦の薔薇。「チアンウェイ」の響きが麗しい。惜しみなく胸の谷間を披露していて赤の透けたキャミドレスが可愛い。知り合った当初は反発し合っていた水仙と薔薇が次第に対等な仕事仲間になっていくところは微笑ましくさえある。この二人がアイスで遊ぶシーンは、えっろい……と息を呑みまくり。二人ともノリノリで卑猥な言葉を連発していて、言葉責めのような実況プレイのような高度のおふざけ。ここがいいんでしょ?やら、もうちょっと際を舐めてやら、アイスだけでここまで盛り上がれるってすごいな!Oh yes!Oh yes!ゲイであることを隠して親と電話で会話している夜来香のために(?)彼女のふりをしてあげるのもキュートの極み。水仙を理解するために体を売ってみた夜来香の激白に付き合ってあげるのもいい子。水仙・夜来香にとっての姉にも妹にも少女にも彼女にもなってあげる薔薇が本当に愛おしくて、この舞台に「薔薇」というキャラクターが存在してよかったと思う。婚約の記念に、という夜来香の珍しい冗談に対してアイスを欲しがるのも可愛いし、傘のシーンなんて大好きだ。


谷口賢志さん。刺。怖い、怖すぎる。姿を現した瞬間から不穏な雰囲気で、娼婦に対する態度に一切ブレーキを設けておらずクレイジーすぎる。薔薇を庇って自らを差し出した水仙に対してベルトで首を絞めたり容赦なく肌を噛んだり、娼婦・男娼をただのモノ扱いして徹底的に憂さ晴らしをしていた。お客様は神様論を自分勝手に並べながら暴力を振るう恐ろしすぎる客だと冷や冷やしていたらまさかの正体。ここは本当に驚いた。そういう繋がりを全く想定していなかった。夜来香に制止されて妻への鬱憤をぶちまけたかと思えば、「何で子供ができないのが俺のせいなんだよ……」と泣き崩れる刺。ここでの急直下の弱りっぷりが刺の置かれている境遇をこちらへ突きつけてきて、刺もまた家族との関係に悩んでいるんだと思い知らされる。もちろん、薔薇や水仙たちへの行為は許せないものがあるけれど、ここまで思い詰めるほどに追い込まれた刺には結局最後まで希望が与えられなかった(と思う)ので、心臓がたまらなく痛くなった。
ゲイで結婚できないため親の期待に応えられない夜来香、(恐らく)ヘテロではあるものの不妊(?)のため義両親・妻の期待に応えられない刺。(※刺については明示されていない箇所が多いので推測を多分に含む。)この二人もまた境遇に近しいものがある。刺は事あるごとに電話を掛けていたことからも、家族とのすれ違いの中できっと夜来香の存在が一服の清涼剤だったんだろう。そんな後輩に、奥さんじゃないと拒絶されてそのまま刺は姿を消す。原作映画でもこの終わり方なんだろうか、刺は。この立ち去るときの動作が言葉にできないぐらい哀れで弱くて、谷口賢志さん凄まじい。


あっち側とこっち側。「入ってくんなよ!」の水仙の叫びは、入ってきてほしいという懇願の裏返しに思える。ラストシーンでは、名前も知らないまままず先に体を曝け出して抱き合った二人がようやく、心を曝け出して無言で寄り添うことができた。二人が体を重ねた場所でようやく。美しいラストシーンに心臓を鷲掴みにされた。幸福が約束されているような明るいラストでは決してないのに、水仙と夜来光にとっての希望がほんの僅かだけ見えて、数ヶ月経った今でも思い出すと胸が苦しくなる。