僕は君が

ときめきの用例採集

『危険な関係』原作を読みまして

シアターコクーンで上演していた『危険な関係』のラストがすごくすごく胸に突き刺さったので早速原作を読んでみた!その結果また舞台について色々考えてる。というわけで、原作の内容も踏まえつつ舞台のネタバレだらけであれこれ書いた。先日の舞台自体の感想はこちら。下の記事もこの記事も、舞台のラストについて思い切り暑苦しく語っているので未見の方はご注意を。

seshiki.hatenablog.com

舞台『危険な関係』あらすじはこちら。

原作は18世紀末のパリ、華麗なる社交界が舞台。 社交界に君臨する妖艶な未亡人メルトゥイユ侯爵夫人(鈴木京香)は、かつての愛人ジュルクール伯爵への恨みから、その婚約者セシル・ヴォランジュ(青山美郷)の純潔を踏みにじろうと稀代のプレイボーイであるヴァルモン子爵(玉木宏)に助力を求める。しかしヴァルモンは、叔母ロズモンド夫人(新橋耐子)のもとに滞在している貞淑なトゥルヴェル法院長夫人(野々すみ花)を誘惑しようとしているところで、その依頼を断る。ところがセシルの母ヴォランジュ夫人(高橋惠子)が、トゥルヴェル夫人に彼を非難し近づいてはならぬと忠告していることを知って、ヴォランジュ夫人への復讐を決意、メルトゥイユ夫人の計画に乗る。 一方、清純なセシルは純粋な若き騎士ダンスニー(千葉雄大)と恋に落ちていた。そこにメルトゥイユ夫人の策略が、そしてヴァルモンはトゥルヴェル夫人を誘惑に……。 二人が仕掛ける退廃に満ちた恋愛ゲームが繰り広げられていく。

 

危険な関係 | シアターコクーン | Bunkamura

購入したのはこの角川文庫版。岩波文庫の方は古いからか、書店に在庫なし。2004年出版の角川版は、『危険な関係』を下敷きとしたヨン様の映画『スキャンダル』がきっかけで発行されたっぽい。角川文庫版ではおよそ600ページでフォントも小さめだけど大して時間がかからずに読めた。それと、『危険な関係』をマンガ化したらしい『子爵ヴァルモン』も読んでみたいのにどの書店にも在庫がない。どこにあるんだ。『とりかえ・ばや』大人気なんだから、過去単行本も書店に並べて~~~。Amazonで買うしかないのか。

危険な関係 (角川文庫)

危険な関係 (角川文庫)

 

手に取って初めて知ったけれど、原作って書簡体小説だったのか!書簡体小説大好き!参考程度に、好きな書簡体小説を少しだけ貼り付け。アフェリエイトじゃなく、ただただこの本を読んでくれる人が増えると嬉しいだけという自己満足。そして、書簡体小説のお薦めも聞きたい。

恋文の技術

恋文の技術

 
往復書簡 初恋と不倫

往復書簡 初恋と不倫

 

 

危険な関係』に話を戻す。

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改めてポスターを観てみると今更すぎる気づきが。メルトゥイユ侯爵夫人を演じる鈴木京香さんは、ヴァルモン子爵役の玉木宏さんに手を寄せてはいるけれど触れ合ってはいない。一方で玉木さんも右手を鈴木京香さんの喉元に突きつけているという拮抗状態。一筋縄じゃいかない二人の関係が凝縮されていていいな~~~。このポスター、玉木宏さんと鈴木京香さんの2ショットにしたのも素晴らしい潔さ。今をときめく千葉雄大さん、本編キーパーソンである野々すみ花さん、今後活躍していきそうな青山美郷さんたちを揃えてのポスターにもできただろうに、敢えての二人だけ。『危険な関係』はやっぱり、この二人が自らのプライドのために全てを巻き込んで起こした戦争という解釈を推したい。大人の駆け引きから男女間の戦争に切り替わった瞬間のゾクゾク感がたまらない。しかも、メルトゥイユ侯爵夫人は端から「男」という性への悪意、何も考えずに生きている同性である「女」への敵意を明確に持った上で行動しているという壮絶さ。舞台で鈴木京香さんが高らかに宣言したあの言葉もよかったけれど、原作のこの翻訳も最高オブ最高。以下、引用。

委細承知、開戦を宣します。

 

舞台は基本的に原作に忠実なストーリー。原作は書簡体小説のため事の裏側が露悪的なまでに明け透けに語られていて、書簡集を実際に覗き見ているような感覚。悪巧みで盛り上がっているときの、侯爵夫人と子爵の楽しそうなこと!ダンスニーやセシルの手紙ももちろんあるので、舞台ではなかなか分からなかったセシルやダンスニー側の思惑も窺い知れる。
一方の舞台では、文字で主観的に語られていた事柄が見事に再現されている上に、そのときの反応も表現されているのでさらに面白い。たとえば、原作では数ページにも渡る、メルトゥイユ侯爵夫人が自らの行動原理について語っている手紙。舞台では対面してヴァルモン子爵に伝えているけれど、そのときの子爵の興味のなさよ~~~!子爵ならそういう反応でしょうね!という圧倒的納得。向かい合っているからこその、男女の相容れなさが視覚的に曝け出されていくこの感じ、冷や汗が流れますね。よきかな、よきかな。

原作を読んで改めて、今回のキャスティングは絶妙すぎると実感。特に、メルトゥイユ侯爵夫人(鈴木京香さん)、ヴァルモン子爵(玉木宏さん)、ロズモンド夫人(新橋耐子さん)の説得力が凄まじい。鈴木京香さんは堂に入った悪女っぷりが、まさに咲き誇る毒の華。原作よりも社交界に君臨していそうな雰囲気がある。原作でメルトゥイユ侯爵夫人は「あなたご自身の取り柄なんてどこにあるのでしょう、その美貌は偶然の結果だし愛想も習慣によって得られるものです」的なことを子爵宛の手紙で本人に言ってのけるけれど(こんな手紙貰ったら泣ける)、ここまでの華を生まれながらにして得ているだけでもう大勝利でしょう!!!と吐血したくなるヴァルモン子爵役の玉木宏さん。暴力的な色気。ヴァルモン子爵という存在にこれほどまでに説得力を与えられるって尊い。表彰。「プレイボーイ」という一言で片付けるのはもったいなさすぎる。相手を視線で刺して言葉で殺せるプレイボーイなるものは二次元の物語の中で数多存在するけれど、三次元にスペックごと場を移すと安っぽくなりかねない恐れがあると思うのです。でも、そんな危惧はご無用。玉木宏さん演じる子爵はオーラからして違う。大阪公演って当日券あるのかな。もしあるのなら、一人でも多くの方にぜひともあのオーラを目に焼き付けていただきたく候。

舞台のラスト。メルトゥイユ侯爵夫人は女性三人で話していたかと思えば、背後に控える自分の執事、セシル、従僕アゾランへ順にふらふら近づいていく。セシルの両手は見逃したけれど、ここでアゾランたちは白い手袋とマスクをしている。そうして三人に冷たい目で見つめ返された後、執事によって両目を白い包帯で覆われていくメルトゥイユ侯爵夫人。その後、くるくるとその場で何度か回ってから覚束ない足取りで前に進み、「私たちはゲームを続けなくては」と呟く。そして、暗転。
舞台を観ていたときも、暗転した数秒間、うわーーーこれで終わりかーーーと静かに熱狂した。原作を読んでみた結果、あの手紙のやり取りからどうやってこういう演出思いつくんですか!?とさらに興奮してしまった。両目とも包帯で覆うとか、くるくるとその場で回らせるとか、最後のあの一言とか。とかとか!うわ~~~発想が凄まじい~~~。頭の中覗かせてほしい~~~。今回の演出家のリチャード・トワイマン氏についてググってみたけれど、あまり詳細が分からなくて口惜しい。また日本で何か演出されるときは観に行きたいなー。原作ではダンスニーによって謀略が暴露された結果、メルトゥイユ侯爵夫人は社交界で拒絶された挙句にパリを追われてしまう。しかも、病気に罹って片目を失ったことで美貌を損ない、借金まで抱えた状態で。舞台で執事たちがマスク&手袋していたのは病気を意味していたのか!侯爵夫人と向かい合ったときの三人の目もぞっとする。美貌を失い、社交界からも引き摺り下ろされたメルトゥイユ侯爵夫人に対しての、とあるご夫人の強烈な一言を原作より以下引用。

病気があの人を裏返しにしたので今では心が顔にでている

この一言、舞台でもロズモンド夫人辺りに辛辣に口にしてほしかった。とは言え、第三者のそういった皮肉が挟まる余地を一切与えていない舞台の演出も好き。舞台では、メルトゥイユ侯爵夫人をあからさまに惨めな最後にはしていない。それでも、包帯で両目を覆った上で「私たちはゲームを続けなくては」と侯爵夫人が鬼気迫る声で呟いたら暗転して幕引きって恐ろしく残酷な結末。特別な存在であった子爵を喪ってもメルトゥイユ侯爵夫人のゲームはまだ終わらない。終われない。もはや引き返せない。あの一言によって、私の中で余韻が驚くほど深まった。
原作がある舞台全てに思うのは、原作に存在しない言葉を新たに考えて台詞として言わせるのって尋常じゃなく難しいのでは?ということ。二次創作をしている身だからなおさら思うのかも。原作にはない異分子を入れれば、どうしたって解釈違いは生まれてしまう。しかも、今回の『危険な関係』の場合、原作に存在しない言葉での幕引き。私は凡人中の凡人なので、自分が『危険な関係』の脚本や演出を考える立場になれたと仮定して考えてみても、「私は負けてない」みたいなありきたりなことをメルトゥイユ侯爵夫人に言わせちゃうと思う。最後のあの状態で「私たちはゲームを続けなくては」と言わせて幕切れ、なんて演出を思いつける才能に本当に平伏したい。ここまで書いていてようやく気がついたけど、キャストの演技はもちろんとして、脚本や演出を担当したスタッフ陣の脳味噌に今回見事に惚れ込んだのかも。脳味噌に惚れると、その人のインプットやアウトプット全てに興味が出てくる。……文字にするとストーカー気質っぽいな。

一つ思ったのは、原作が書簡体小説なので朗読劇にしても面白そう。もちろん、今回の舞台キャスト陣でお願いしたい。どなたも声が聞き取りやすかったから朗読にも向いていそう。それにしても、この舞台は映像化されないのだろうか。WOWOW辺りで放送してくれるよう願っておこう。先日の舞台感想でも書いたけれど、ダンスニーが子爵に渡したプレゼントが一体何だったのかまだ気にしてる。光り輝くオスカー像に見えたけれど見間違いな気もするんだよなー。実際のところあれは何だったんだー。気になるよー。
危険な関係』大阪公演は11/14まで~!