僕は君が

ときめきの用例採集

『関数ドミノ』

前川知大脚本目当てでチケットを購入した『関数ドミノ』。10/11ソワレ公演のネタバレあり感想。

場所は下北沢、本多劇場。駅周辺でカレーフェスティバルをしていたらしく相変わらず人が多い。シモキタのヴィレヴァン通る度に、待ち合わせに長澤まさみ嬢が現れたら美人局を疑うな~~~と考えてしまう(モテキ)。本多劇場で舞台を観るとき、比較的早めに私がチケットを獲っているからか、単なる偶然なのか、前方ブロックばかりに座っている。A~D列。距離が近すぎて若干首が痛くなりそうなので、中通路を挟んだE列に一度座ってみたいと毎回思っているんだけど、なかなかチャンスに恵まれない。

とある都市で、奇妙な交通事故が起きる。
信号のない横断歩道を渡る歩行者・田宮尚偉(池岡亮介)のもとに、速度も落とさず車がカーブしてきた。
しかし車は田宮の数センチ手前で、あたかも透明な壁に衝突したかのように大破する。
田宮は無傷、運転手の新田直樹(鈴木裕樹)は軽傷で済むが、助手席に座っていた女性は重傷を負ってしまう。
目撃者は真壁薫(瀬戸康史)と友人の秋山景杜(小島藤子)、左門森魚(柄本時生)の3人。
事後処理を担当する保険調査員・横道赤彦(勝村政信)はこの不可解な事故に手を焼き、関係者を集めて検証を始める。
すると真壁が、ある仮説を立てるのだった。
その調査はやがて、HIV患者・土呂弘光(山田悠介)、作家を目指す学生・平岡泉(八幡みゆき)、真壁の主治医・大野琴葉(千葉雅子)をも巻き込んでいく。
はじめは荒唐無稽なものと思われた仮説だったが、それを裏付けるような不思議な出来事が彼らの周りで起こり始める――。

 

kansu-domino.westage.jp


『太陽』脚本を読んだときも強烈に感じたけれど、一縷の希望、という表現がピッタリなストーリー構成にたまらなくなる。救いがなくどうしようもないように思えても、辛うじて微かな希望を感じることができる結末に胸が詰まった。でも人によっては、いやいや絶望一色だろう、という感想もありえそう。
世の中には「ついてる人」がいて、それは期間限定の神様・ドミノだからだという仮説が『関数ドミノ』のストーリーを引っ張る。不可解すぎる状況下で交通事故が未然に防がれたことにより、目撃者である左門森魚こそがそのドミノだという真壁の仮説が様々な側面から検証されてく。こういう検証、好きです。で、荒唐無稽とも言えるこの仮説。観客側をさらに惑わせるのが、真壁のカウンセリングを行なう精神科医の存在。この精神科医・大野先生によって「ドミノ幻想」という精神病の一つがあると説明される。「自分が上手くいかないのはドミノのせいなんだと、ドミノという存在を作り出して現実逃避を図る症状」的な。この説明によってリアリティーが一気に増して、え?真壁はその精神病ってこと?とますます展開が読めなくなった。SFと現実の狭間に迷い込む。何が真実なのか分からず、何を信じるかの取捨選択をこちらまで迫られている気分に。というか、「ドミノ幻想」って本当にあるのかと思った~~~!観劇後に即、google先生に訊いてしまった。もう完全に前川脚本の掌の上。
演出によって口調を崩したのか、そもそも脚本でそういうセリフなのか不明だけど、『関数ドミノ』は口語的。「それ、おかしくないっすかぁ?」などかなり崩した言葉遣いだからこそ余計にリアリティーがあって、舞台上の世界はこちらの観客側の世界との地続き感がある。それと、『関数ドミノ』パンフレットを読んでいて気になったのが、年代の若いキャストなのを考慮して2009年版を採用したというお話。2009年版は希望があるものだけど2014年版はもう少し絶望感が強いということで、2014年版は一体どんな結末だったんだ!?気になりすぎる!

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キャスト別感想。
瀬戸康史さん。真壁薫。お顔小さっ!ネガティブで卑屈でゲスな皮肉屋。荒唐無稽な仮説に説得力を持たせる狂気めいたものが感じられた。瀬戸さんってイケメンで柔和な雰囲気があるので、「いつもそばにドミノがいるから自分は上手くいかないんだ」という卑屈全開の役柄が意外すぎたけれど、驚くほど合っている。瀬戸さんの全てをフルに使った卑屈全開の演技に圧倒されすぎて、髪の毛すごくもこもこしてる……なんて逃避めいたことまで考えてしまった。髪の毛を掻き毟る仕草が、どうにもならない苛立ちを抑えきれない真壁の心情を表していた。イケメンで何もかも手に入りそうな瀬戸さんが真壁薫、あまり外見にも気を配ってなさそうで風采の上がらない(格好を非常に上手く演じている)柄本時生さんが左門森魚、という対比もよかった。真壁が繰り返し唱える、ドミノのせいで自分は損しているという考え方は、人間なら誰もが感じたことがあるだろう妬み嫉みのため、どれだけ真壁が卑屈なことを言おうがなかなか嫌いにはなれない。だって、自分だけどうしてこんなに上手くいかないんだ!って思ってしまう瞬間ってある。あるある。分かるよ、真壁。まあ、どうしようもない面倒くさいやつだなぁとは思ったけれど。
真壁は自己中心的で卑屈でネガティブな人間ではあるものの、ドミノとして交通事故を止めたという事実を考えれば、思いやりを持っているはずなんだと思う。本当に腐っているのなら、赤の他人の交通事故なんてそのまま起こして撮った写真をtwitterにでも上げて承認欲求を満たすぐらいのことはするだろう。ここまですればゲスの極み。でも、真壁はそんなことはせず、見ず知らずの田宮を助けるために車を止める。この部分、本編では言語化されないけれど、真壁の人間性も捨てたものではないのでは。そんな真壁がドミノと指摘されて混乱している中で、倒れた秋山さんのそばに座り込んで背中をさすり始めた瞬間は、正直ほっとした。いつ、「俺には無理だ、もう止めた」って言い出すか分からない危うさが怖くもあったけれど、真壁は何度も動きを止めながらも懸命に秋山さんに声をかけ続けた。ラストのその光景に「信じる」ことの可能性を感じたし、未来へのほんの少しの希望を見出せた。真壁と秋山さんの関係性って明確には説明されてないから結構謎。ただ、秋山さんが真壁の荒唐無稽に思えるドミノ仮説をひたすらに信じ続けてくれたのって、真壁のドミノとしての願いだったから、なんだろうか……。秋山さんには自分の考えを信じてほしいという真壁の欲望?うーん、どこからどこまでがドミノの領分なのかは誰にも分からない。それが何よりも怖い。『関数ドミノ』について、幸せとは身近なところにあったんだという『青い鳥』のSF版とは言い切れないのが、その幸せ自体がドミノという一時的な無敵モードのみで作り上げられたかりそめすぎる土台なんじゃないかと思えるから。ドミノ、考えれば考えるほど深みにハマる~~~。


柄本時生さん。左門森魚。前田あっちゃんのブス会メンバーとして知ってはいたけれど、演技をちゃんと観るのは初めて!「森魚(もりお)」という名前が似合うね!徹底して風采の上がらない格好だけど、雰囲気や口振りが非常に穏やかで結構人たらしの印象。期間限定の神・ドミノになれたのは棚ぼたっていう感じがすごく漂っていて、パンチラ神というのも何となく微笑ましく思える。冒頭から「普通に面白い」と「普通に」を連呼していて、イマドキっぽいなぁと。森魚自身は、状況が全く分からない中で完全に巻き込まれただけの被害者。ただ、周囲の不審な状況に気がついた際の「分かるよ、俺だって馬鹿じゃないんだし」のぞっとするほど落ち着いた声が恐ろしくてよかったので、もう少し森魚の汚い感情も見たかった。三角関係の恋愛の方は、池岡亮介さん演じる田宮の最後のクズっぷりが最高オブ最高。真壁の言葉を借りるなら、一矢報いたのかもしれないけれど。フられた途端に掌返すって生々しいぞ。森魚はそれにつけこんで、田宮の片思い相手・平岡泉ちゃんをゲットするかと予想していたけれどそんなことなかった。森魚はそういうやつじゃなかった。


小島藤子さん。秋山景社。可愛い……見たことある……可愛い……見たことある……のエンドレスリピートで記憶を探っていた観劇中。ハイローの純子さんか~~~!ザム3では純子さんにも出演してほしいけどどうなんだろう。かなり近くで見た小島藤子さんはたいそう可愛かった。髪さらさら!秋山さんが真壁の仮説を半ば狂信的なまでに信じ込む姿に最初は疑問を抱いたけれど、その理由を聞けば納得はできた。真壁については、比較的まともっぽい秋山さんがここまで尽くしてるんだからそれなりにいいやつなんだろう、と思えた部分が大きい。真壁と秋山さんの関係は共依存のように最初は思えたけれど、実際のところ真壁からの執着が半端ない気がする。そこまで執着していても、秋山さんのようにポジティブな発想転換はできなかったか、真壁……。自分とは正反対だからこそ惹かれるんだろうな。


鈴木裕樹さん。新田直樹。お顔小さいし、スーツ姿が似合っている。交通事故が防がれた代わりに、助手席の奥さんが重傷となってしまったため終始苛立っている役柄の新田。限界まで膨らんだ風船が今にも割れそうな不安定さと不穏さを四六時中漂わせていて、こういう負の影響を周囲に撒き散らすキャラクターって何を仕出かすか分からないからこそ好き。しかも、新田は気だるげな喋り方でいることが多くて、「おかしくないっすかぁ?」とかの挑発的な言い方もよかった。あと、田宮のことを「田宮氏」って呼んだのが無性にツボ。対面では田宮とほぼ言葉を交わしていないのに、盗聴を続けてきたことで勝手に距離が縮まっているのか、呼び捨てじゃなく氏呼びなのが面白い。奥さんの安否が結局不明のまま終わってしまって、奥さんを治してもらうことを最優先に動いている新田を観てきたこちらとしては少し消化不良。


勝村政信さん。横道赤彦。不可思議な事故の調査などを任されがちらしい保険調査員。何だその設定面白いな!保険調査員・横道さんの不可思議事象を調査するスピンオフが見たくなる。そう思うぐらいに横道さんいいキャラ!登場時から笑いをかっさらっていて、さすがは勝村さん。ただ室内を移動するだけなのにユーモラスで序盤の癒やしだった。精神科医の大野先生を除けば、主要な登場人物の中で最年長の横道さん。終盤での周囲の様子を黙ってじっと窺う姿なんて完全に私立探偵。真壁に君こそがドミノだと告げて以降の一言一言がとにかく重い。真壁に寄り添うわけではなく、それでいて完全に突き放してもいない言い方が本当によかった~~~。「最後にポジティブな奇跡を頼むよ」というのは、観客の気持ちでもある。信じる力を、ポジティブに見せてくれ。


『関数ドミノ』のフライヤーにも書かれていたこのキャッチコピー。

世界は欲望によって創られる。
思いの強さが「奇跡」を起こす。

後半の一文なんて王道マンガに使われてもおかしくないような爽やかなフレーズ。でも、真相が明るみになった瞬間、世界の見方が一気に変わる。どこまで自分の可能性を信じられるのか。自分こそドミノなんだと信じて日々を過ごせてるか、今後過ごせるか、観客のこちらも問われている。