僕は君が

ときめきの用例採集

演劇集団キャラメルボックス『スロウハイツの神様』

 

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フライヤーの中村至宏さんのイラストに惹かれたのがきっかけで、7/14ソワレ公演を観てきた。ネタバレありの感想をつらつらと。初キャラメルボックス&初辻村深月作品!中村至宏さんのイラストは東京創元社の推理文庫の表紙になりそうなイメージ。今改めてフライヤーを見たけど『スロウハイツの神様』を観た後だとおおお……!ってなるさりげなさで、キーになる小物たちが描かれてる。中村至宏さんの公式サイトはこちら!女の子がたまらなく可愛くて驚く……。中国の書籍の表紙らしいイラストが一番好き。机の上に立つ女子高生って何でこうもエモいのでしょう。

Yukihiro Nakamura Web


キャラメルボックスという劇団名は本当にあらゆるところで聞くけれど、今回初めて行ってみて、その溢れんばかりのホスピタリティに衝撃を受けた。見本用パンフレットが何冊も置かれていて自由に読める!撮影用のインスタ風Caragramなるセットがある!公式サイトに全曲目リスト(iTunesなどのURLつき)が載ってる!撮影OKカーテンコールがある!開演前の前説で紹介されてたお静かにカードも、差し出せる勇気のある人にとっては便利そう。今回、数年ぶりと言っていいぐらいに観劇マナーが残念な人が前の席だったので、あのカードの必要性を実感できた……。私語は許せる方だけど(集中するとあまり気にならない)、体を何度も何度も揺らしたり隣に凭れ掛かったりされるとどうしても気になってしまう~~~。観客は老若男女問わずだけれど中高生が多かったのが特徴かも。集団観劇っぽかったから演劇部とかの課外授業かな?舞台を皆で観に行くなんて楽しそうなイベントでうらやま。中高時代、学校の講堂で月1~2で映画を観るイベントがあったけれど、舞台だとなおさら非日常感がありそう。
そういえば、アンケートのとある質問に衝撃を受けた。アンケートって結構その舞台独特の質問があるけれど(固定ファンが多い方の舞台では大体「本日は何回目の観劇ですか?」って質問があって恐れ戦く)、キャラメルボックスでは「成井豊に舞台化してほしい、あなたの大切な小説・映画・アニメ・コミック作品を教えてください。」とあった。

2004年、北村薫さんの名作「スキップ」を初舞台化。以後、原作を徹底的に研究し尽くし愛し抜いた舞台化の路線へ。2015年の結成30周年ではついに筒井康隆さんの『時をかける少女』を世界初舞台化し、原作者の絶賛を浴びる。

サマープレミア「スロウハイツの神様」|演劇集団キャラメルボックス[CARAMELBOX]


公式サイトを覗いてみたところ上記のように紹介されてるし、積極的に小説なども舞台化されてる劇団なんだな。舞台化・ドラマ化・映画化問わず、実写化が決定する度に阿鼻叫喚が巻き起こっているご時世で、敢えて舞台化を望む作品を問い掛ける姿勢に絶対的な自信を感じる。そうして、きっと観客(ファン)側も、キャラメルボックスなら原作の核を損なわずに舞台化してくれるはずだっていう信頼の下、自分の大切な作品についてアンケートに記すんだろう。劇団とファンの幸福な関係だなぁ、痺れる。ちなみに、舞台化してほしい作品なんて私は考えたことがなかった。ドラマ化してほしいのは日本橋ヨヲコ『G線上ヘブンズドア』と池上遼一サンクチュアリ』!『G線上ヘブンズドア』はフジの火曜9時枠、『サンクチュアリ』はNHKのプレミアムドラマ枠でどうでしょう。『サンクチュアリ』は題材的に難しいかなーだろうなー。末次由紀クーベルチュール』はドラマ化を望まなくても勝手に実現されるだろうと予想してたけど意外と実写化しないし、実写化の決め手って何なんだろう。舞台化を積極的に望むっていう姿勢もあるんだと刺激を受けたので、今度舞台化を観てみたい作品で一つ記事を書いてみたい。

劇場はサンシャイン劇場東池袋駅改札から地下通路で10分程度。公式サイトのアクセスには6・7番出口から徒歩5分とあるけれど、その出口に行くまでが結構長く感じる。コンビニやカフェは道中でいくつかあるから便利。お手洗いの個室も比較的多めだし、座席も傾斜がついていて観やすいし、好感度高し!ただ、オタクのくせに池袋があまり得意じゃないので、池袋に行くだけで疲れるっていう非常に個人的なマイナスポイントだけがある。とらのあなk-booksを覗くだけならいいけど、サンシャインシティ界隈は新宿や横浜とはまた違った混雑でへとへとになる。
19時開始で21時過ぎ終了、休憩なしで約2時間。原作は上下の分厚い長編らしいので、それを2時間でまとめ上げたのはすごい。ただ、原作は恐らくそれぞれの人物造形にかなりページを割いてると思うので、登場人物たちの関係を冒頭の数シーンで簡潔に説明したところが潔いなと。説明が多くてセリフの文字量が膨大なのか、それとも私が観た公演がたまたまなのか、あまりにも多くの人がセリフを噛まれてたのでそこだけちょっと興醒め。

 

メフィスト賞受賞作家ということで辻村深月という作家名は知っていて、作品名も『冷たい校舎の時は止まる』『凍りのくじら』『ハケンアニメ!』ぐらいは聞いたことがあるけれど、結局手を出すことがないままここまで来た。今回、舞台で先に辻村深月作品の手触りを味わうことに!本屋のPOPやチラシからのイメージで、青春ミステリーが多めなのかなとイメージしてた。 

10年前、福島県集団自殺事件が発生し、15人が死亡。首謀者の部屋には、チヨダ・コーキの書籍と関連グッズが溢れていた。マスコミは「チヨダ・コーキの小説のせいで起こった悲劇」と騒ぐ。コーキはインタビューで「責任を感じますか?」と聞かれ、「僕が書いたものが、そこまでその人に影響を与えたことを、ある意味では光栄に思います」と答えてしまう。日本中に、コーキに対するバッシングの嵐が吹き荒れる……。

10年後、脚本家の赤羽環は、知り合いの老人から旅館だった建物を譲り受け、アパートに改造。「スロウハイツ」と名付けて、友人たち5人と暮らし始める。その中には、あのチヨダ・コーキの姿もあった。そこへ新たな住人として、小説家志望の加々美莉々亜がやってくる。莉々亜はコーキの大ファンで、彼の部屋に入り浸り始める……。

 

サマープレミア「スロウハイツの神様」|演劇集団キャラメルボックス[CARAMELBOX]

 

本編の感想としては、あしながおじさん的展開の伏線は大体読めるし、ご都合主義も否めない。スロウハイツの住人だけでこの世界は完結してるのかと思えるほどに、創作面でのキーパーソンもスロウハイツ住人にしかいない。フォーカスを当てる登場人物を舞台では二人に限定したとフライヤーにも書かれていたから、その取捨選択の分、原作が持っていそうなミステリー要素は薄れたように思う。伏線や関係が読み取りやすい。ミステリーで引っ張りたいのか、恋愛ドラマを押し出したいのか、中盤では少し戸惑うところもあった。クリエイターとファンの関係に男女の恋愛が絡むことで、それは創造主への感謝なのか、異性への愛なのか判然としない。それでも、このストーリーを貫く「やさしさ」にほろりとした。あしながおじさん的展開もご都合主義も愛おしくなる舞台だった。

現代のトキワ荘と作中でも触れられていたように、クリエイターの卵たちが一緒に暮らすシェアハウス・スロウハイツ。まずこの場所が、「やさしい」。それぞれの創作物について忌憚のない意見が飛び交うこの場所は、まだ世間に認められていないクリエイターにとっての繭のような存在に見えた。次に、人間関係。スーの新しい彼氏・五十嵐君や新入居人・加々美莉々亜の糾弾や拒絶でも触れられるように、スロウハイツの人間関係も「やさしい」。それを気持ち悪く受け取る側が描かれているのもよかった。その「やさしさ」の中で、コウちゃんこと千代田公輝は圧倒的で、彼が赤羽環のために陰日向になって幸福を送ろうとする姿には胸が温かくなる。世間のバッシングによって傷を負った彼が、自分を救ってくれたファンの少女のために行動するなんて、じんわり来るに決まってる!その一方で、赤羽環の行動はいっそ盲目的にも見えて、一人だけ異質なほどに苛烈だ。自分自身の生きる支えである創造主・コウちゃんのためにありとあらゆる手を尽くそうとする環だけれど、その行動の根幹にある感謝に共感を覚えるかどうかが、『スロウハイツの神様』に共鳴するかの分岐点のように思えた。環は何度も言う。「コウちゃんの作品があったから私は生きていくことができた」。私はここで『幽☆遊☆白書』の一コマを思い出した。とある妖怪が人間に負けて、死ぬ前に何か言うことはあるかと問われた際に「できればもう一日生きたい…明日『ヒットスタジオ』に戸川純が出る」と人間臭い返事をするシーン。人間臭さに驚いた人間はその妖怪を殺さない。小説や音楽問わず、生きる希望になる創作物がある人はその出逢いに感謝すると思う。私にもそういう創作物はあるので、環が繰り返し紡ぐ言葉には共感の嵐だった。
ただ、『スロウハイツの神様』はそれだけじゃない。クリエイターが創作物を生み出す覚悟についても真っ向から触れられている。本を持って自殺した少女のニュースを聞いた環は、今すぐ逃げようとコウちゃんの手を引っ張る。またコウちゃんが好奇の目に晒されてバッシングを受けることを恐れての行動だけれど、コウちゃんは決して動かない。自分の創作物が他者に与える影響が良いものでも悪いものでも、全て覚悟して筆を執っている。クリエイター関連のお話って、創作物が与える影響への覚悟と才能の有無のどちらかは取り上げられる題材だと思う。今回、スロウハイツの住人全員がクリエイターという設定から、才能の有無について容赦ない振り分けがされるのかと最初は想像していたけれど、全員が程度の差こそあれ、才能ありということで少しほっとした。周囲との才能の比較でもがき苦しむストーリーもすごく好きだけど、『スロウハイツの神様』は才能よりも覚悟に重きを置いているのが、雰囲気に合っていた。原作ではどうなのか分からないけれども。

キャスト感想。特に心惹かれたお一人を!
狩野壮太役、玉置玲央さん。ものすごくよかった……!原作を知らないのに、狩野がいる!って思った。舞台では狩野は他メンバーに寄り添う場面が多く、それでいて、時には自らの漫画について厳しい指摘をされる。狩野の感情にフォーカスを当てられることは少ないけれど、玉置玲央さんはそんな狩野の感情の機微をすごく繊細に表現されていたと思う。幹永舞が話題に上がったときの演技をもっと凝視しておけばよかったなぁ。あのときは正直、黒木さん説を自分の中では推してた。ヨーヨーする姿もチャーミングで、玉置玲央さん覚えておこう……!って決意を新たにした。Wikiったら『ライチ☆光クラブ』でタミヤ役されてたらしく、何それ絶対最高では……と確信。ライチ舞台って本家みたいに血飛沫浴びるんだろうか。↓は撮影OKのカーテンコールで撮った写真。壊滅的に下手な写真だけれど、玉置さんがヨーヨーしてる姿を撮りたかったんだという熱意だけは伝わるはず……。

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この舞台を観た人ならきっと声に出して言ってみたくなるセリフ、「御破局おめでとうございます!」このセリフからお話に引き込まれていった。生きる希望になる創作物がある人にとって共鳴できるフレーズがあちこちに散りばめられてる作品だと思うので、原作にも手を出してみたい。舞台は完売続きで、千秋楽後に追加公演が決定したぐらい人気だったようなので、いつか再演もあるのではと期待。キャラメルボックスは秋に恩田陸『光の帝国』を舞台化するそうなので、それも観に行きたい!