僕は君が

ときめきの用例採集

シス・カンパニー公演『子供の事情』

7/12ソワレ公演の感想。初日から10日ほど経ってるのでネタバレあり。観劇予定がある方はご注意ください~。事前知識なしで観る方が絶対に楽しい。予想以上に面白くて、それでいてほろりとくる舞台でした。

 

作・演出:三谷幸喜
出演:天海祐希大泉洋、吉田羊、小池栄子林遣都青木さやか伊藤蘭浅野和之春海四方小手伸也
演奏:萩野清子

 

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場所は新国立劇場中劇場。初台駅で下車してからの風が強烈で、この劇場に来るときは髪をセットしても無意味だ……と学んだ。小劇場では中村倫也さんの『怒りをこめてふり返れ』も公演中。新国立劇場はロビーも座席も綺麗でいいな。三谷幸喜さんかつ豪華キャスト陣ということで、観客の年齢層はかなり幅広め。これだけの観客を大いに笑わせられる三谷さんはやっぱりすごい。上演時間は休憩あり(15分)の2部構成で、18:30開演で21:05頃には終演。A席だったけど傾斜がついてるから十分に見やすかった。それでも表情(特に大泉さんの顔芸!)をチェックしたい場合はオペラグラス必須かも。

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時代設定は大阪万博の翌年(1971年)。場所は世田谷区の小学校、4年3組の教室。三谷さんお得意のワンシチュエーション!教室と廊下だけがあるセットで、壁には「進んで行動」「毎日元気な挨拶」「いつも仲良く」「ルールを守ろう」で「すまいる」って書かれたポスターなどが掲示されてる。
他の子たちは塾などの用事があってすぐ帰るのに、授業が終わっても何となく学校に残っているお決まりメンバー8人。アニキ(天海祐希さん)を中心としたそのメンバーの名前は「スーパーエイト」。いつも通りの放課後を過ごしてるところへ謎の転校生ジョー大泉洋さん)が加わったことで人間関係に変化が起こっていく……といった感じのお話。三谷幸喜さんご自身の小学生時代から着想を得たってことで、三谷幸喜さんの子供時代であるホジョリン(林遣都さん)が語り部となってストーリーは進んでいく。林遣都さんの第一声は「どうも、三谷幸喜です」。こんなの爆笑するしかない!
音楽はピアノ生演奏。この演奏者の方がカーディガンに膝丈スカートの恰好で、こういう優しそうな先生いるいる~。そのピアノ伴奏とともにキャスト陣が歌う歌う!今回、歌うなんて全く思ってなかったから驚いた!「スーパーエイト」の主題歌みたいなものまであって楽しすぎる。すいか売りの少年の歌(天海祐希さんが懐かしの童謡・すいかの名産地の一節を歌ったりする!)や揚げパンとうどんの歌は盛り上がった~~~。「揚げパン」と「うどん」尽くしの曲でここまで盛り上がれるってこれが三谷幸喜さんマジック???私は揚げパン派じゃなかったけれど、すっかり童心に帰ってた。
登場するおもちゃや文房具はどれも分からなくて、公演後に「1971年 流行 おもちゃ」でググった。近くの席の10代っぽい子たちもあれ何?と不思議がってたけれど、三谷さんと同年代っぽい人は懐かしいと連呼してた。アメリカンクラッカーはテレビで見たことがあるぞ。天海さんも大泉さんもアメリカンクラッカー上手かった~~~。ただ、スピログラフの遊び方は全く分からなくて、帰宅してから母に訊いた。あ、鍵付き筆箱イコールお金持ちの等式は納得しかなくて笑い転げた。

 

演出。1~4幕それぞれのタイトルを大きな紙に書いたものを持って、リピート(浅野和之さん)が舞台の端から端まで歩く。この紙がものすごく小学生らしさが詰まってた!まず、子供の字っぽい!で、スペースを考えずに書き始めたせいで妙なところで改行しちゃうあの感じ、ノスタルジックすぎる~~~。小学生らしさをふんだんに散りばめたこの場面転換、大好きすぎる。演出では特にラストが最高オブ最高で、三谷幸喜さんすごい……!って震えた。新国立劇場の舞台装置にも感謝した。『子供の劇場』は新国立劇場で上演する意味があるんだなぁ。(※他劇場の装置に詳しくないから他劇場でも可能なのか不明)ここから完全なネタバレです。教室がそのまま遠のいていくんですよ……。どんどん、どんどん遠くへ。教室の中、みんなは遊んでるままで。いつもの放課後が永遠に続いていくような雰囲気と相反して、それでも確実に遙か彼方へ遠のいていく。何このノスタルジック感……!!!小学生時代の思い出を語るといった体で進んだストーリーの締め括りとして、ここまで完璧なものはないのでは。切なさで胸が締め付けられた。ほろりとした。この演出について語り合いたいよ~~~。
カーテンコール。二度目のときにスーパーエイト(ここではスーパーテン)の歌をキャスト陣が歌って踊ってくれる!!!この歌詞は舞台本編でも十分によかったけれど、カーテンコールでさらに意味合いが深まる。カーテンコールへの風刺にもなっていて、三谷幸喜さんの発想力たるや……。千秋楽のカーテンコールがどんな感じになるか気になるなぁ、これは。

大人の役者が子供(10歳)を演じるというこの舞台の肝はすんなり受け入れられた。リアルとファンタジーのほどよいバランスといった印象。むしろ、ホンモノの小学生キャストが演じるとリアルな痛々しさを感じるシーンもあるかも。大人の役者が演じることである意味「隙」というか、敢えてリアル感を薄めた感じが出てよかった。シリアスに傾きそうなときには絶妙なタイミングで、「俺たちは10歳だから」とか「僕たちはまだ子供だ」と言ったりして、そこでまた笑いが生まれてた。「10歳」という年齢設定も絶妙で、11歳の小学5年生になるともう少し恋愛関係もあれこれ絡んでくる気がする。

 

キャスト感想を。
天海祐希さん。皆から頼りにされている中心人物、アニキ。ここに天海祐希さんを据えた説得力よ……!アニキが「私、そういうの好きじゃないな」って言うだけで、じゃあ止めておこうかって思えてくる。アニキの子分になりたい。天海さんならではのあの美しいお顔やカリスマ性を前面に出して神童のようなキャラクターにもできたと思うけれど、「アニキ」は大泉洋さん演じるジョーにお株を奪われて以降痛々しささえ見せる役どころで、その繊細さが観れてよかったなぁ。意外だったのは、ジョーの指摘に対して、アニキも悩んだ上で「アニキ」というキャラクターを築いてきたと打ち明けたこと。アニキは人間関係のポジショニングなどは考えてなくて、悪いことをできない性格でありのまま過ごしているうちに自然と「アニキ」ポジションに収まったのかと思っていた。でも、アニキの吐露によって、10歳なんて年齢は関係なく、人間関係においてどのポジションを勝ち取るかは重要で死活問題にさえなり得るんだと改めて気づかされた。1部とは打って変わって2部では中盤辺りまでアニキの登場は少ない。その少ない登場の中で、クラス内ヒエラルキーの変化を如実に見せつけられるから、この辺りは面白さと切なさで揺れた。よそよそしい皆の態度に平気な素振りをしたり、他メンバーの会話を黙って聞いたり、アニキがいちいち切ないんだ~~~。だからこそその分、ラストで、ジョーの本性を糾弾したアニキが「一つのクラスに二人もアニキはいらない!!」って声を張り上げるシーンは爽快!わあああ、アニキよかったです~~~って思ってしまう私は完全にアニキ派閥。王の帰還ならぬアニキの帰還!そう素直に思えるのは大泉さんの絶妙な悪役っぷりも大いに関係してるので、そこは次で語りたい。

 

大泉洋さん。波乱を呼ぶ転校生、ジョー。三谷さんが大泉さんのために用意した役だからハズレなわけがない!序盤から堂々とした歌いっぷりで、ソロで歌い上げた後にはピアノ演奏者の方とお互いにOKサインをやり合っちゃう。ただの大泉さんです。笑う。一人称「おいら」、船乗りの子供、テレビは見ない、などなど。転校生ということ以外にも異質の要素を冒頭から見せつけるジョー。「すいやせん」ってあの大泉さんが気取って口にするだけで面白いんだからもう反則。「一つのクラスに二人もアニキはいらない」とニヒルな笑みを浮かべて画策していく小悪党っぷり最高すぎでは???1部ではジョーがクラスを掌握するまでの駆け引きや罠、2部ではクラスを牛耳ったジョーのさらなる画策と隠していた事情が明るみにされる。1部ラストでのフィクションの悪役をイメージして完全に酔ってるジョーには心底笑った。フィクションの悪役ってそういう仕草するする~と大泉さんの演技にお腹が痛くなってるうちに休憩へ突入。2部はアニキポジションにすっかり収まってるジョーの姿から始まる。痛々しささえ見せるアニキへの態度といい、ジョーは完全に場を掌握していた。でも、クラス内で慎重に取り扱っていたとある事情にジョーが無神経(敢えてこう表現する)に踏み込んだことで、アニキのターンへ!ジョー父親が船乗りというのは嘘で、実はお金持ちのおぼっちゃん。前の学校では友達がいなくて可哀想な子だと思われていた。ただただこのクラスを引っ掻き回そうとしてるだけだ!とアニキに諸々を暴露されたことで、前の学校では友達がいなかったから転校先のこの学校では人気者になりたかったんだと認めたジョー。今までの大人ぶった態度は消えて、本当に子供っぽくわんわん泣きながら。小悪党とはいえ憎めないユーモアさと終盤で剥き出しになった弱さがたまらなくて、これは大泉さんのための役だなぁと。

 

吉田羊さん。ツインテール設定を採用した方は神。吉田羊さんのツインテール姿が拝めるなんて!チャーミングの極み!真面目な優等生だけど成績は悪いホリさん。「多分バカなんだと思う」byホジョリン。フライヤー写真でも明らかに優等生っぽいのにまさかのバカ設定!冒頭からあまり空気が読めなさそうな優等生っぷりで多少浮いてるところもあるホリさん。お手洗いに行くときに「トイレに行ってきます」っていちいちアニキに報告する姿が庇護欲をそそる~~~。皆が一瞬で飽きたスピログラフにも継続して興味を持っていて、スピログラフで描いた作品をヒメにプレゼントするちょっとズレたところもホリさんらしい。そんなホリさんが実は一番重い事情(それぞれ比較するものではないだろうけど)を持っていた。彼女には何の咎もないのにマスコミに今もなお追われ続けてるのがやり切れなかった。ホリさんの事情に気を遣って触れないようにしていた皆へのジョーの意見にも一理ある。それでも、「逃げていい」って言ってくれるアニキがホリさんのそばにいてくれてよかったなぁと私は思った。何もかもに立ち向かわなきゃいけないわけじゃない。

 

小池栄子さん。おたまじゃくし盗みなど悪戯をしてばかりのクラス一番の問題児、ゴータマ。一番秀逸だと思ったあだ名。教科書に載ってるゴータマ・シッダールタの顔に似てるからって、ホジョリン天才かよ。このあだ名には納得しかなくて三谷さんのひらめきに平伏す。ヘアバンドをつけてるのもリアリティある~~~。ヘアバンドつけてる女の子って結構ハキハキしたしっかり者が多かったイメージ。あと、小池栄子さんとヘアバンドの相性がたまらなくいい!問題児といっても抜け目なく謀略を巡らせるタイプのゴータマ。5年生の給食ワゴンから揚げパンを強奪して広場で売る計画を立てたときも、揚げパンがなかったらそのクラスもさすがに気づくのでは?というアニキの指摘に、給食を残す量が多いクラスは食いしん坊が少なくて食にあまり興味はないはずという考えの下、ちゃんと各クラスの給食お残し量の調査をしたと反論する。ゴータマとジゾウ(ゴータマの子分)すげえええええ。リサーチまでしてる~~~。2部で、ジョーにとあるアイディアを提供する代わりに席替えを提案するよう頼むゴータマ。その理由が可愛くて、ゴータマをさらに好きになった。ツンデレな上に手も出ちゃって素直になれないゴータマが愛おしくなる。そういえばあのとき……と点と点が線に繋がる感覚。ゴータマがすごく好きだから、終盤で「アニキはたしかに私たちを裏切ったかもしれないけど騙したことはない」って言い切ってくれたときの安堵感……!アニキの味方をしてくれてありがとう、ゴータマ!

 

林遣都さん。補助輪つきの自転車に今もまだ乗っているから、ホジョリン。白ソックスが似合うぜ、林遣都さん。あだ名をつけるのが得意で、彼以外の皆のあだ名はホジョリンがつけたもの。この舞台の語り部で、本人自身もクラス内では傍観者の立ち位置でいようとしている。ジョーにアニキの座を奪われてからのアニキを「元アニキ」と呼ぶ無邪気な残酷さには、傍観者たるや……と震えた。もちろん、アニキを一番気遣ってるように見えたのもホジョリンなんだけども。そんなホジョリンが傍観者の立ち位置から足を踏み出す場面が印象的だった。ゴータマが色々な悪戯をしてしまう動機として、いつか突然来る「死」が怖くてたまらないからと話したところ、その感情を理解できないと口にしながらもそっと頭を撫でてあげるホジョリン。この撫で方が本当にそうっとしていて、それを黙って受け入れてるゴータマを観てると無性に泣けてきた。理解できなくても寄り添ってはあげられる。ホリさんとアニキの関係にも同じことが言えそう。しかも、その怖さを消してはあげられないけど楽しいことは教えてあげられるとホジョリンが言う。ホジョリンは子供時代の三谷幸喜さん……!そう考えるとアツい。人間賛歌とよく謳われる三谷作品は、死を恐れる誰かにとっての灯になろうとしてるのかもしれない。

 

伊藤蘭さん。芸能界で活躍してる子役、ヒメ。ヒメだけは何となく教室に残ってるわけじゃなく、芸能活動で忙しいから放課後に特別授業を受けてる。芸能活動のせいで成績が落ちたと咎められないように各教科満点を目指して頑張っている努力家。その一方で自分の手は汚さずに周囲を上手く使って思い通りに事を運ぼうとするあざとさもあり。ヒメ可愛いよヒメ。『スイカ売りの少女』で見せるオーバーな演技には笑った。一部キャスト陣も本気で噴き出しそうになってた気がする。登場する10人の中でヒメだけは異質で、すでに大人の社会で生きている。だからこそ、小さな教室での人間関係なんて些細なものだと、外に目を向ければもっと様々な世界があると、ヒメに言わせることができる。小学校での人間関係のポジショニングに重きを置いたストーリーだし、こういう存在は必要だなぁ。教室だけが自分の生きる世界全てじゃないんだ。大人社会で生きてると自負してるヒメに、もっと大人ぶって達観したセリフを言ってほしかったかも。


10年間の人生を積み重ねてきたんだ、と同義の言葉が終盤では何度か繰り返される。この舞台では10歳の少年少女を子供扱いはしておらず、一人の人間として大切に尊重している。たしかに改めて言葉にしてみると、「10歳」って10年も生きてきてるんだ。それぞれの細かなリアリティーのおかげでこういう子いたいた~!と頷けるし、登場する10歳の少年少女全員が愛おしくなる舞台で、性別・年齢問わず楽しめるストーリーだと思った。キャスト陣の演技はもちろんとして、あのラストの演出を一人でも多くの人に目撃してもらいたい!