僕は君が

ときめきの用例採集

『ベター・ハーフ』

6/30ソワレ公演を観てきました。再演ってこともあるので、ネタバレだらけの感想。東京公演は7/17まで。当日券は公演前日のお昼12時~開演3時間前まで予約可能!もしくは、劇場受付で開演1時間前から販売。当日券絶対に出してくれるって素晴らしい!ありがたい!

場所は下北沢、本多劇場。ロビーには各公演のフライヤーが置かれてるので自分で取捨選択可能。お花もいっぱい。物販コーナーでは鴻上尚史さんのこれまでの戯曲や、ベターハーフ初演DVD、中村中さんのアルバムなど色々あり。パンフレットは鴻上尚史さん対談やキャスト陣4人でのトークが面白いのでぜひぜひ。お値段1500円なり!座席に向かうと、鴻上尚史さん直筆コピーのご挨拶が置かれてた。ちなみに座席はC列だったんですがA~D列は傾斜なし!前の人にかなり左右されるな……といった感じ。

 

「ベター・ハーフ」とは、自分が必要とする、もう一人のこと。
ーー天国でひとつだった魂は、この世に生れる時に男性と女性に分けられて別々に生まれてくる。
だから、現世で天国時代のもう片方の自分に出会うと、身も心もぴたりと相性が合うと言われる。
その相方をベター・ハーフと呼ぶ。


始まりは、嘘と誤解だった。若い諏訪は、中年の上司から「自分の代わりにネットで知り合った女性とデートして欲しい」と言われる。なぜなら、「お前の写真を俺だと言って送ったから」と。
諏訪を待っていたのは、トランスジェンダーの友人に頼まれて、身代わりのデートに来た平澤だった。友人もまた、自分の写真を送れなかったのだ。
こうして、若い男女と、中年の男と、トランスジェンダーの女性の四人がぶつかり、笑い、別れ、慰め、歌い、闘う恋の物語が始まった。

 

http://betterhalf.thirdstage.com/

 

あらすじからメロドラマみたいな舞台なのかと想像していたけれど、ほぼほぼ笑いっ放しで時々切ない涙が滲んだ。多分、本編では「ベター・ハーフ」って言葉自体出てこなかったんじゃないかな。
鴻上尚史さんの舞台は初めて観たけれど、「フランス人に殺されるといい」「僕の好きな人の悪口を言うな」「ドラマだと終わっちゃうよ!?」とか色々な意味でグッと来るセリフが多すぎる!口に出したい・出されたいセリフのオンパレード。冒頭、演劇のメッカ本多劇場の舞台に一人立った風間さんが、「メッカ」という言葉について語り始めるのからして最高。
「出会い系」「身代りデート」「トランスジェンダー」「デリヘル」。どれか一つに絞っても脚本を書けそうだけど、この舞台ではそれらは全て要素でしかなかった。贅沢!「出会い系」は2人が知り合うきっかけに過ぎないし、「身代りデート」は4人が出逢う装置、「トランスジェンダー」は個性で、「デリヘル」はお金を稼ぐ手段。それらを要素とした4人の「恋愛」に真っ向から主軸が置かれてる。パンフレットでも触れられてる通り、恋愛ものって結ばれるまでに障害が多く用意されていて、結ばれたらハッピーエンドというストーリーが多い。恋人になってこそすれ違いや衝突は起こるだろうっていう考えの下、この舞台は3年半ほどの期間の物語になってる。序盤は時の流れに驚くぐらいあっという間に1年過ぎたりする。恋愛絡みの出来事だけ並べると、「諏訪と遥香付き合う、沖村と汀付き合う、2組とも破局、諏訪と汀(性転換手術成功)付き合って同棲開始、沖村は遥香パトロンになる」などなどかなり複雑に絡み合う人間模様……。事象だけ並べると身も蓋もないけれど、舞台を観てるとどれも納得できるストーリー展開なのです!面白い!


風間俊介さん。
PR会社に勤務する仕事大好き人間、諏訪。芸能界で成功したいから恋愛してる余裕なんてないって繰り返す遥香を口説くときに、「僕はPR会社勤務だよ、ものを売るプロだ。君が売れるようにアドバイスもできる」なんてことまで言っちゃう!諏訪、自分のPRまで最高かよ。舞台上で起こる事象だけ並べていくと、諏訪はなかなかにひどい男。沖村の頼みとはいえ、汀と同棲までしてるのに、台湾での芸能界デビューに挫折して傷ついてる遥香(元彼女!)を現地まで迎えに行ったりしちゃう。しかも、その後抱いちゃう。あああああ諏訪ぁぁぁ。それでも諏訪が憎めない。台湾で再会して崩れ落ちる遥香を抱き締める表情とか、汀に全て打ち明けるときの間の取り方とか、どれもこれもいい。遥香がやっぱり好きだからと汀に別れを告げる場面、汀が言うんですよね、「私じゃ子供が産めないから?」って。それを諏訪は激しく否定する。トランスジェンダーであることは汀を形作る要素に過ぎなくて、そこは諏訪との恋愛には関係してこない。性別に関係なく諏訪は遥香を選ぶんだっていう説得性がすごく大事な場面だと感じたんで、ここでの否定の仕方もよかった。
で、こんな諏訪を演じられるのは風間俊介さんだけだと思うんですよ!!!諏訪というか風間俊介さん最高説を唱えたい。本当によかった。ごくごく普通の男を本当にリアル溢れる感じに演じられるってすごくないですか???パンフレットで片桐さんが、この脚本は誰がしても面白くなるって絶賛されてたけど、遥香役以外は3人とも現キャストありきだなと私は感じた。爽やかな雰囲気を纏って普段は憎めない笑顔を浮かべる一方で、修羅場では真摯に声を絞り出せる風間さんだから、諏訪が活きるなぁと。脚本の妙はもちろんあるけれど、風間さんの絶妙な匙加減によって諏訪という存在は成り立ってる。不誠実だけど誠実。優しいけど優しくない。諏訪に限らず、人間ってそういうものだよなって思わされる。そういえば、4人全員で踊るオープニングだったんですけど、風間さんがダンスしてる姿を見るのなんて8時だJ以来じゃないかな!????スーツ姿で踊る風間さんは大変よかったです。既婚者み溢れてて最高。

 

松井玲奈さん。
芸能界での成功を夢見る遥香。悪徳事務所に払うレッスン代などで金欠のため、コスプレデリヘルでお金を稼いでる。プロ意識があるのかコスプレのときのなりきりっぷりがチャーミングの極み。エロマスターと汀に崇められるほど性知識に詳しい。遥香については正直、他3人とは違って元アイドルや元清純派の女性のための役なんだろうと思った。ここについてはまた別で語りたい。
芸能界で成功してやる!っていう野心だけで動いてきた遥香には様々な試練が訪れる。というか、女性陣への試練多すぎる。遥香は恋愛面では諏訪と付き合えて幸せだけど、一度目はそれで野心が萎んでいきそうになる。二度目は、諏訪と別れた汀の方がメジャーデビューして芸能界へ足を踏み入れてしまう。台湾での失敗も入れると、遥香は仕事面ではなかなか芽が出ない。それが切なくてたまらなかったけれど遥香は最後まで諦めない。諏訪と結ばれてハッピーなんて終わりじゃなく、敢えてまだ厳しい方へ突き進んでいく逞しさが愛おしくなる。これは好みだろうけど、愛によって野心は萎んだけれど愛を糧にして幸せに生きていく、なんて終わりじゃなくてよかった!芸能界のてっぺんを本気で目指す遥香だからこそ、お金を稼ぐ手段としてデリヘルを選択する思い切りにも説得性が増す。ちなみに、コスプレ姿を多く披露する中でチアガール姿が最高オブ最高!かわいいいいいい。チア姿になるなんて発想、ロンハードッキリの徳井でしか見たことないぞ。彼氏の30歳誕生日を祝うために自発的にチアになる遥香ちゃん最高!
松井玲奈ちゃんよかった。本当によかった。元推しメンなのです……。他3人と同じぐらい声は通ってるし、ちゃんと「遥香」だし、もうすっかり女優さん。卒業してもう2年経つのか。一人でも多くの人に女優・松井玲奈を目撃してもらいたい。

 

片桐仁さん。
全てのきっかけになる諏訪の上司、沖村。モテない中年役。冒頭の諏訪との掛け合いが面白すぎて最初からジェットコースター気分。脅すか縋るかどっちかにしてください、って諏訪に言われるぐらい、脅しつつ縋りつつ諏訪にデート代役を頼み込むシーンはユーモラスすぎる。爆笑した。遥香と汀で余った方を慰めてゲットするとか他にも色々ひどいセリフがあるけれどそれでも憎めない。圧倒的な愛嬌がある。でも、ただの道化役じゃなくて、誰にも愛されたことがない悲哀も見せてくれる。「予感、ないか?」「僕の好きな人の悪口を言うな」のシーンはそれぞれ違う意味でグッと来た。
ラーメンズの片桐さんだ!99.9の片桐さんだ!ラーメンズDVD見てます~~~ってミーハーとしては滾ってしまう。この役も片桐さんだからこそ終盤の悲哀による暴走が面白おかしくなってる。当て書きとは思わないけれど片桐さんが演じることを踏まえての役っていう感じ。「モテないのなんて今更じゃないですか!」って説得する諏訪のセリフが笑いになるのも、沖村役が片桐さんだからだと思う。それにしても、遥香がデリヘルで働いてることを諏訪にバラすときの表情に嫉妬と意地の悪さが滲んでいて、こんな片桐さんが拝めるなんて『ベター・ハーフ』に万歳。

 

中村中さん。
ラウンジでピアニストとして働いてるトランスジェンダーの汀。沖村が出会い系で知り合ったのは汀だけど、初めてリアルで会うことになったとき、汀は自信がなくて遥香に代わりに行ってもらう。そこから全てが始まった。この舞台で、どうか幸せになって……って一番祈るような気持ちになったのは汀さん。沖村にトランスジェンダーであることを打ち明けられない気持ちも、台湾から帰国しない遥香を心配する諏訪に耐えられなくて遥香を突き放す気持ちも、全部理解できる。遥香と汀が知り合ってきゃっきゃと盛り上がるシーンが可愛くてたまらなかったから、恋愛が絡むことで2人がすれ違っていくのが切なすぎた。性転換手術を受けてから徐々に露出したドレスを着る汀が本当に美しくて、花が開いていく過程を目撃してる気分。
パンフレットで風間さんも語ってたけど、中村中さんすげぇぇぇって観客誰もが唸る、と思う。誰目当てで行ったとしても。『ベター・ハーフ』の核!あの情感たっぷりの歌声を聴くと痛いぐらいに感情が伝わってきて、中村中さんすげぇぇぇっって圧倒されるしかない。「愛してる」で涙が出た。弾き語りだけじゃなく、演技も当然素敵。トランスジェンダーとしての葛藤はもちろんだけど、それ以上にコメディエンヌとしての才能がすごい!本当に面白い。

 

舞台上には、ジグソーパズルを模している背景(ところどころ欠けてる)と、机や椅子となるカラフルなブロックだけ。時々、中央にピアノ。それだけで会社屋上、喫茶店、ホテルラウンジ、自宅リビングに場所が早変わりする。発想次第でここまでできるから、やっぱり舞台っていいなぁとしみじみ感じた。しかも、舞台の展開に合わせて、映像投影で背景のパズルが次から次へと剥がれ落ちていく。心象風景になってるこの演出よかった。あと、同棲してる部屋で諏訪と汀が別れ話をしてる場面で、その場に遥香が来る。その遥香は少し未来の時間軸で、汀と別れてからの諏訪が部屋に招き入れるわけなんだけど、違う時間軸の出来事を同じ空間で同時に演じる演出最高。「別れ」を選択することでの地獄が視覚的に感じられた。

『ベター・ハーフ』を観て、「You complete me.」という言葉を思い出した。直訳するなら「あなたが私を完全にする」で、あなたに出逢って完全になれた、あなたが必要っていう意味合いだと解釈してる。諏訪と遥香はベター・ハーフなのかもしれないけど、諏訪といることで遥香にとっての重要なピース「野心」は失われそうになる。その野心を失えば、遥香本人にとってはきっと不完全な自分になるんだろう。ああ恋愛の難しさよ。Completeの難しさよ。それでもあがいて生きていこうとする晴れ晴れとしたラストで締め括られたから、『ベター・ハーフ』は本当に観てよかった。