僕は君が

ときめきの用例採集

『3月のライオン 後編』

都内での上映がいつの間にか終わってたので、慌てて他で観てきました。その映画館での(多分)最終上映日。もしかして観客は自分一人かなと予想してたけど全くそんなことはなく、意外と人は多め。男女比半々ぐらい。

「愛の後編」と銘打たれてる後編は零くんと宗谷名人の記念対局、川本家次女ひなたちゃんのイジメ問題、川本家父・誠二郎登場など、原作5~11巻のエピソードで中盤辺りまで進んでく。そこからが映画オリジナル展開で、誠二郎を巡る対応での零くんと川本家のすれ違いから、獅子王戦での零くん対後藤戦、幸田家の家族問題についても切り込んでいった。内容てんこ盛り。ひなちゃんのイジメ問題は原作でも泣くしかなかったので、後編はなかなか体力要りそうだなと躊躇ってたのが、後編を観るのがここまで遅くなった理由。

 

ハチミツとクローバー」で知られる羽海野チカの大ヒットコミックを、「るろうに剣心」シリーズでもタッグを組んだ大友啓史監督&神木隆之介主演で実写映画化する2部作の後編で、18歳になった主人公のプロ棋士・桐山零の戦いや、零を取り巻く人々とのドラマを描く。

川本3姉妹との出会いから1年がたち、今年も獅子王戦トーナメントが始まるが、最高峰を目指す棋士たちには、さまざまな試練が待ち受けいた。一方、川本家に3姉妹を捨てた父親が突然現れ、耳を疑うような要求を突き付けてくる。零を演じる神木のほか、ライバルで親友の棋士・二海堂晴信役の染谷将太有村架純佐々木蔵之介加瀬亮ら豪華キャストが前編に引き続き共演。川本3姉妹の父親役で伊勢谷友介が新たに登場する。

3月のライオン 後編 : 作品情報 - 映画.com

 

ぼさぼさ頭の零くんが登校するシーンから始まって、高橋一生さん演じる林田先生が早速屋上で語り合ってくれる。林田先生とスミス先輩たちが今作の癒し。原作で癒しパート担当の川本家は、映画には存在しない……。川本家もイジメ問題や父登場で嵐の真っ只中。
川本家問題その1。ひなちゃんのイジメ問題は映像の強さが辛い。屋上フェンスを上るようにはやし立てる掛け声とか聞いてるだけで涙が出た。ただ、その分、映像で見るひなちゃんの真顔での怒りも凄まじくて、同レベルに落ちないためにいじめ首謀者女子を殴りもしないひなちゃんの気高い強さよ。清原果耶さんは泣き顔と真顔が今回多めでなかなか笑顔が見れないから、最後は青空をバックにして晴れやかな笑顔が見たかったなぁ。いじめ首謀者女子は、原作で描かれたような空虚な感じが演じられててすごく合ってた。ひなちゃんの反撃も担任の豹変もどこか面白そうに小馬鹿に眺めていて、あーほんとに気持ちが通じないんだと。イジメ問題を追及する教師との会話での、「先生、私謝ったじゃないですかぁ~」「ああ、口だけな」「口だけ……口だけ、口だけ……」っていう言い方が絶妙。この子への反省を促す原作のセリフは、ぜひとも映画でも聞きたかった。
イジメられてる友達を庇ったことを後悔なんてしてないと言い切ったひなちゃんに救われる零くん。「君は僕の恩人だ」シーンで小学生時代の零くんに本を差し出してあげるひなちゃんの映像は心に響いた。ひなちゃんに思いを告げるとき零くんの上半身しか映っていなくて、地面に両膝ついてるのか片膝なのかそこが重要だ。片膝だと跪いてる感が出る。全身映してほしかった。イジメ問題で癒しだったのは、零くんとひなちゃんが将棋を指す場面。「桂馬の高跳び歩の餌食、だよ。使いたくなる駒だけどね」って指し方をアドバイスした零くんに、「でも、零くん、桂馬持ってないじゃん」って返すひなちゃん。このときの、まあそうなんだけどね……ってたじたじの零くんが可愛い!この二人は可愛いなぁ。原作みたいにもっと年頃の甘酸っぱさを見せてくれていいのよ。

 

川本家問題その2、伊勢谷さん演じる父・誠二郎襲来。自分のペースに自然と持って行くところとか、反論してくる零くんへの苛立ちとか、うわ~~~完璧に自己中心男の誠二郎です~~~と伊勢谷さんの演技に感激した。森田さん@ハチクロがこの役をするなんて時間の経過を感じます。
妻子捨男☆とかSUTEO☆って感じで、あまりシリアスにはならないようにだろうけど、原作では結構容赦ないあだ名をつけられてる誠二郎。誠二郎はクズ!零くん頑張れ!って意識で映画を観てると、徐々に不穏になってく零くんと川本家三姉妹のすれ違いにアレレ?って焦ってく。誠二郎が幼稚園からモモちゃんを連れ去ったときの反応が零くんと姉妹の間であからさまに違ってて、今後の展開が見えすぎて震えた。あああああ、零くん。君がこれから仕出かす事態と負う傷がもう見える……。予想通り、激昂して川本家皆の前で口汚く誠二郎を罵った結果、「私たちのお父さんなんだよ」や「今日は帰ってくれるかな……」と姉妹に言われてしまう零くん。ただ、ここからの神木くんの演技は本当にすごかった!!!一人消沈して部屋に戻った零くんが、感情を全て削ぎ落とした表情でひなちゃんから貰った人形をゴミ箱に捨て、「将棋しかねぇんだよぅ……」って嗚咽交じりにこぼし、二階堂からの電話に言葉少なに平静を装って返事するシーン。前編と同じセリフ「将棋しかねぇんだよぅ……」がまた違う意味を持って心を揺さぶってくる。二階堂の電話を取って、「ん?……別に何も」みたいに取り繕う声のトーンとか、テーブルに頭をつけたままの妙な体勢とか、まさに零くん……!!!ってなった。
零くんと川本家のすれ違いは映画と原作で大きく違っていて、賛否両論ある改変かもしれない。零くんの危なっかしさと川本家三姉妹の自力での決別を表現したかったのかなぁ。原作のひなちゃんも、零くんがもたらす父親の情報に複雑な気持ちになってるようなセリフはあったけど、色々動いてくれる零くんへの感謝の方が圧倒的に強かった。それは、原作の零くんが川本家に教える誠二郎情報を取捨選択していて、その上、誠二郎を圧倒的にやり込めるのは1対1(川本家の前ではおかしな言い分への指摘だけに極力留める)でしてるからだと思う。これは彼が持つ優しさと気遣いが成せる業だと認識してたんだけど、映画だとそういう零くんらしさのベクトルの向きが違ってくる。大事な川本家への優しさと気遣いのあまり暴走して、敵=誠二郎に感情的になってしまってる感じ。ただ、将棋の世界で大人に揉まれてきた経験もあって誠二郎にペースを乱されず互角以上に渡り合えるところが、零くんの過去は十分に「助け」になってるんだと原作で読んでて救われた部分だったから、この改変の必要性が正直まだ掴めてない。映画では三姉妹の「情」部分に寄り添ったのかな。原作未読だとこの筋書きでも特に違和感はないかも。
その後、零くんが対局に勝利して(この部分の神木くんのもがき苦しむ演技も素晴らしい)、川本家を久しぶりに訪れるシーン。この前にせめて、あかりさんから零くんに着信入るとか、三姉妹が対局をネットで観てるとか、気まずいまま別れた零くんへの気遣い描写があればなぁ。零くんが謝って仲直りできるように自分から動くことは大事だけど、愛って「思い合ってる」のも重要な要素なのでは?って気がするから、三姉妹からの働き掛けもほしかった!うん、零くん寄りの意見だな、これは。

 

映画オリジナル展開、その1。伊藤英明さん演じる後藤九段の奥さんの死去。意識がないまま入院中の奥さんの病室蛍光灯が点滅していたら、看護師に早く交換するよう怒鳴る後藤。ここは奥さんへの愛を感じた。何度も交換を頼んでいるのにまだされていないなんて、奥さんが粗末に扱われてるような気にたしかになる。そうして、亡くなった姿を見た後トイレに駆け込んだかと思ったら、そのまま泣き崩れるって反則すぎる……。後藤九段にここまで泣かされるなんて予想外。葬儀に宗谷名人が出席したのはどういう心境なんだろう。そういうものは一切出席しなさそうと思ってたから意外。奥さんを心配する必要もなくなったからこれでやっと将棋に集中できると言って、香子との関係も清算した後藤九段。つまり、香子との関係を続けていると将棋に僅かでも集中できない=香子に多少の情はあるってことでいいのかな。後藤九段と香子の関係の始まりって原作でも触れられてないからなかなか謎。

映画オリジナル展開、その2。幸田家問題。後藤に突き放されて、何もかも将棋に奪われたと父・幸田八段の前で泣き崩れる香子。父親の愛情も、好きな人も、温かな家族も。トヨエツ演じる幸田八段は、香子が将棋の道を閉ざす要因となった零くんと香子の対局について話し始める。零くんに勝てそうになくて手を上げた香子に、幸田八段が棋士への道を諦めるように諭した数年前。その対局について「お前には勝ち筋があった。自分を信じきれなくて諦めたのは香子だ」と幸田八段は言う。うーん。それなら、棋士への道を諦めるようにまで言わなくても~~~と思ってしまう香子寄りの意見。将棋で自分の勝ち筋が読めなくて対局相手に手を上げた時点でダメなんだろうけども。このアドバイスを数年越しにしか言えないのが幸田八段の不器用さ。記念対局前日に、緊張している零くんにアドバイスしてあげる姿はいい父親なんだけどな。後編キャッチコピー「闘い続けるあなたが輝く一手は、必ずある」は一番、香子のための言葉に思えた。映画で香子をたまらなく好きになった。
幸田家問題、まさかの弟・歩くんも取り上げられた!さすがに歩については触れないまま終わらせるかと予想してたけど、「再生」や「愛」の人間ドラマを描き切ろうとする製作陣の思いが伝わってくる。今回の映画での歩と零くんのオリジナルエピソードよかった!小さい頃、「宗谷名人と対局することになったら零も誘ってやる」と約束していた歩。獅子王戦で後藤九段に勝利して宗谷名人への挑戦権を得た零くんはその約束を思い出しながら、観戦招待状を持って歩の部屋を訪ねる。冷静に考えると、まだ燻ってる状態の歩が大人しくその招待状を受け取るには、何か一つ切っ掛けとなるエピソードが挿入されてる方がよかったかも。でも、純粋に、ここはよかったと思った。泣けた。

 

最後の宗谷名人との対局はラストを締め括るにふさわしい場所で、こんな荘厳なところがあるのかと驚いた。宗谷名人の加瀬亮さんは涼やかな貫禄があって予想以上に役に合ってる。真山@ハチクロがこんな貫禄を身に着ける日が来るなんて……。香子役の有村架純さんの笑いながら徐々に泣き崩れる演技には胸を掻き毟りそうになったし、ラストに後藤に言ってのけるセリフは可愛げもあって最高。佐々木蔵之介さん演じる島田八段がほぼ登場しなかった上に、宗谷名人の秘密を軽はずみに零くんに言っちゃうのは本当に残念だけど、尺の都合上仕方ないのか……。ああいう秘密はそうそう他人に言わないと思うんだけども。三姉妹は原作にあるファンタジー感と現実感の狭間ですごく難しそうな役どころだから、スピンオフが観たいです。きゃっきゃしてるだけの三姉妹を存分に観たいです。手巻き寿司パーティーとか開いてほしい。神木隆之介さんは何から何まで完璧で、零くんに息を吹き込んだらこういう喋り方で、あんな風に走るんだろうなって思えた。