僕は君が

ときめきの用例採集

『3月のライオン 前編』

完成披露試写会で観てきた『3月のライオン 前編』の感想を。

前編映画、よかったです。実写化についてはどうしてもマイナスからのスタートになりがちな自分だけど、この映画はよかった。原作未読層への分かりやすい丁寧な説明は潔く切り捨ててる感もあったけど、その分、原作を愛してる層が特に重視してる部分は掬い上げられてたと思う。私が原作で号泣した箇所(とあるモノローグ)が、神木くんの声で読み上げられてたから好印象っていうのは多分にある、かもしれない。説明があまりされてない気がしたのは川本家関連の部分なので、その辺りはもしかすると後編でフォローされてるのかも。

 

映画で気になったのはこの2つだけ。これ以外はほぼ満足!
羽海野作品といえば、あの独特なモノローグ。縦横絡み合って登場人物の感情が呟かれる。今ではもうあまり珍しくないのかもしれないけど、ハチクロで初めて見たときはすごく印象に残ったのが懐かしい。映画ではたしか、中盤ぐらいまで原作のようなモノローグは呟かれなかった、と思う。それは別に気にしてない。映画と漫画ではアプローチが違うし、神木くんは表情や仕草でそういったものを表現できる役者さんだろうし。ただ、後半になって、将棋の対局シーンでみんな心の声を呟く、呟く。演出としてモノローグを避けてたわけじゃなかったようで、目の前の対局相手と心の声での会話までしてる。これは脳内で語りかけ合ってるんですか……?とその辺りでちょっと醒めてしまったけど、将棋の対局とは「対話」なんだ、と考えればイケるかも。

原作だと、悪い先輩に無理に飲まされてそのまま街に一人だけ置き去りにされた零くんを、あかりさんが見つけて拾ってくれるんですよね。それが今回の映画では、スミス先輩たちに連れられて飲み屋に行った零くんが自ら勝手にお酒を飲んだかと思えば、次のシーンで街中で一人倒れてる。そこをあかりさんが通り掛かって、「最後まで面倒みろよなー」って言いながら零くんを介抱してくれる。このあかりさんの一言で、え?スミス先輩たちが零くんを置き去りにしたの?原作での「悪い先輩」ポジションが映画ではスミス先輩たちになったの?って疑問に思った人も多かったみたいで、羽海野先生がtwitterでコメントされてた。そんな悲しい話は通さない、と。私も最初観たとき、ん?と一瞬思ったけど、スミス先輩たちと別れてから最寄駅以降で零くんは気分が悪くなって倒れたのかなぁと勝手に補完してた。原作でのスミス先輩たちを知ってるから故の自己補完だけど、原作未読組の人はこの辺りをどう思ったのかちょっと気になる。

 

映画で特によかったのは、零くんの子供時代を演じた子役さん!大西利空くん。前編終わってまず検索したのは「3月のライオン 零 子役」。香子に激しく責め立てられて涙を流すシーンで、くぐもった嗚咽と引き攣った声と零れ落ちる涙が、追い込まれていく零くんをリアルタイムで目の当たりにしてるみたいで見てられないぐらいだった。子供ってこういう泣き方するよな、自分も子供時代こういう泣き方したなぁって胸が苦しくなる。
前編は本当にまだ軸も定まってなくてふらつく零くんで、原作初期が懐かしくなった。それでも前編の中だけでも、零くんはどんどん成長していく。冒頭とラストじゃ瞳の輝きも横顔の凛々しさも違う。「将棋しかねぇんだよぉぉ!」のあの絶叫は、零くん役が神木くんでよかったと一番思わされた。
映画オリジナルシーンとして島田と後藤の対局があるんですけど、二人ともおやつを黙々と平らげる。このオリジナルシーン最高。むしゃむしゃおやつ食べる佐々木蔵之介さんなんて需要しかないでしょ。まさに需要と供給が一致した瞬間。

 

原作でももちろん一人一人の生き方を描いてるけど、その中でもやっぱり零くんと川本家三姉妹に比重が置かれてる。でも、今回の映画では零くんと並び立つ位置に、香子がいる。そこが衝撃だった。事前に予告編は観ていたけどここまで香子がフォーカスされるなんて。子供時代の寂しさと悔しさで開いた穴を埋めることもなく、埋められることもなく、剥き出しで傷だらけで生きてる香子の苛烈さに魅せられた。ここまで香子について考えるのは映画が初めてだ。「今度はこの人たちなんだ」。初詣で川本家と連れ立って歩く零くんに出くわした香子は、また他人の家庭で温かく過ごしてそうな零くんに嫌味を言う。それでも、零くんの回想では何度でも幸田家が出てくる。香子には零くんが「次」に進んだように見えるだろうけど、零くんもまだ幸田家のあの居間に留まってるように見えた。
映画は、川本家だけじゃなく幸田家が舞台でもあった。将棋の家の子供として生まれて、将棋の駒にちなんだ名前をつけられて、そして神にも等しい父親に将棋の道を閉ざされた香子がこれからどうなるのか。香子にも何らかの救済があるのかと期待してしまう。だって、それなりに触れるだけでも済ませられただろう香子についてここまでガッツリ深掘りしてくれたのなら、やっぱり納得できる最後も用意してほしい!

 

完成披露試写会だったからか、前編上映後に後編予告編が流れた。後編の範囲を知らなかったから、え?この場面も?あの場面もするの!?って驚きと喜びの連続。周囲からも、え?ええ!?って声が上がってた。一番歓声が上がったのが伊勢谷さんの一瞬のショット。伊勢谷さんがあの容赦ないまでに自己中心的な父役!切り札すぎる……。ここまでのキャストが揃ったなら、あれもこれも実写で観てみたいって欲望がむくむくと。そしてラストに流れる「春の歌」。羽海野チカ作品×スピッツの相性の良さよ。ハチクロアニメのときも、真山と理花さんのシーンで流れた「ほのほ」で涙腺が破壊された思い出。自己犠牲にも近い一途な献身的歌詞が、真山にリンクしてほんとにもう。歌詞にキャラを重ねるのがどうしても止められないオタクの性。女性の声で歌われる「春の歌」も柔らかくていいな。

後編は内容的に前編以上に体力を使いそうだなと躊躇ってるうちに、都内映画館での上映が終わってしまった。ヤバい。『美女と野獣』と『から紅の恋歌』をリピート鑑賞してる場合じゃなかった。遠出でもして後編も早く観に行こうと思います。