僕は君が

ときめきの用例採集

「楽しみな予定だけ書いた手帳を作る」 #死なない杯

大好きなWEBサイト『冷凍都市でも死なない』での企画、死なない杯!『冷凍都市でも死なない』の素敵なコンセプトは以下の通り。こんなの好きになるしかない。

なんとなく生きづらい世界をできるだけ愉快に、できるだけ持続的に、できるだけ美しく どうにかこうにかうまいこと生き抜いていくためのやり方を記録し共有するためのウェブサイトです。

shinanai.com

 

で、死なない杯とは、 

冷凍都市でも死なないを運営する私たちだけじゃなくて、もっともっとたくさんの人が生活の中で行っているそうした工夫とか、考えてることとか、体験したことを、色んな人から募集して、共有することができたら良いなあと思って、死なない杯を開催することにしました。

死なない杯では、期間中に冷凍都市でも死なないの読者の中から、その人が死なないため、生きづらい世界を楽しく生き延びるためにやっていることや、実際の体験談、エッセイ、レシピ、やりかた、記事の内容を実際にやってみたレポートなどを広く募集します。

死なない杯開催のお知らせ

 

 

よし、自分も書いてみよう。ってことで、「楽しみな予定だけ書いた手帳を作る」をテーマに書いてみました。

 

 

上京した日、私は寮に入った。セキュリティ万全、門限あり、男子禁制の女子寮へ。引っ越し業者であっても男性が足を踏み入れる際は届けを提出しなくてはならない、らしい。「初めての一人暮らし」の解放感や高揚感は凄まじく、女性だらけの生活も居心地が良かった。女子校育ちだからか。けれど、初めての東京は目まぐるしい。幼い頃、観光で東京に行ったとき、「だよね」と柔らかな語尾で話す男性にカルチャーショックを受けたのが懐かしい。今度は自分が様々な指摘を受ける番だった。エスカレーターで止まる位置に狼狽え、方言を指摘されて戸惑い、巨人vs阪神の論争には相槌を打つことしかできなかった。

心を亡くすと書いて忙しい。その年の秋頃から徐々に忙しくなっていった。元からの筆無精もあり、親や友達のメールにもLINEにも着信にも返事をするのが億劫だった。いつの間にか忙しさに追われて、エスカレーターは無意識に右側で止まって舌打ちをされ、方言が露わになるほど言葉を発さず、人と雑談をする時間も減っていった。

 

「楽しみな予定だけ書いた手帳を作る」ようになったきっかけは、握手券を2枚無駄にしたことだ。

 

当時の私は無性に、放っておいてほしかった。気遣いも労いも慰めも不要なものばかりで、斜に構えた態度を取ることも多くて、ああ、今思い返すと穴に埋まりたい。そんな姿勢だったから、人と会話をするよりも一人で音楽を聴いたり映像を観たりするのが好きで、寮に帰ってからの時間はほぼyoutubeに当てられた。AKBの映像はyoutube に溢れ返ってる。公式映像としてのMVだけでなく、深夜バラエティーの映像まで。その冬からは学芸会と評されるマジすか学園も始まり、坂道を転げ落ちるようにAKBに夢中になった。個別握手会のCD購入方法を調べたときのことを今でも覚えてる。それからは二人の女の子の握手券を2~4枚取るのが常で、遙か彼方の幕張メッセに向かう電車の中で、今日は何を話そうと考えるだけで楽しかった。その子たちのブログやモバメを読み返す時間は愛おしかった。そんな中、忙しさのあまり握手会日程を勘違いする。そのことに気が付いたときにはもう遅かった。それぞれの女の子の握手券が無駄になった。 

これはよくない。 

おまけに、その日の推しの服はたいそう可愛く、これを生で見て褒める機会を失ったのかと思うと居ても立ってもいられなくなって、すぐにLOFTで薄っぺらい手帳を買った。月ごとのシンプルなカレンダーがあれば十分だったから、そこに確定済みの予定を書き込んでいった。Googleカレンダーでもよかったんだろうけど、その当時はまだガラケーだったから手帳を選択した気がする。その選択が今もまだ続いてる。一件ずつ自分の好きな色で予定を書き込むのは、未来の自分への贈り物にラッピングをしてるような気分になれる。握手会や舞台、コンサート、好きな本の発売日。握手会は赤色、舞台は水色、コンサートは黄色、ジャンルによって色を変えた。AKBの握手会は数ヶ月先まで決定しているのが普通だったから、春以降の月にも色はどんどん足されていく。いつでも消せるフリクションペンを相棒として、この予定を書き込む行為だけはこまめに行なった。

人との約束は書かなかった。誰かと共有するものじゃなく、一人で幸せに浸れるものに焦がれていた。

 

100gにもならないその薄っぺらい手帳を鞄に入れた。心が亡くなってきたら、一人きりでその手帳を開いた。何度も何度も、電車の座席、お手洗いの個室、街中のベンチなどで。ページを開けばカラフルな予定が詰め込まれてる。顔をうずめる。幸せになる予定が詰め込まれてる。まだ、楽しみが待ち構えてくれてる。数日先には、一週間後には、間違いなく自分はハッピーになってるんだ。じんわりした笑いが零れた。にまにま笑う。そうやって過ごしてるうちに、いつの間にか心の充電は溜まっていった。数ヶ月も前から、幸せの保証がされてるのは安心感を与えてくれた。

 

スピッツの歌「スピカ」を思い出す。

幸せは途切れながらも 続くのです
続くのです


今年はMAQUIA付録のピンクの手帖を使ってる。さっき、10月の舞台のチケットが獲れたから水色で予定を書き込んだ。また、にまにま笑う。

途切れ途切れでも幸せが続くから、冷凍都市でも生きていける。